2020年の年末、太地町の定置網にミンククジラが流入し、動物愛護界隈からの中傷めいた非難が集中した。しかし、同時期に御浜・宇久井・室戸と行った地域でも同様の混獲事案が発生していた。何故、太地にのみ非難は集中したのだろうか?
混獲という普遍的な出来事
大まかにいうと、混獲とは、本来その漁の対象であるもの以外のものが混ざってしまうことだが、その中には残念なことに希少な魚類や鯨類も含まれてしまう。
現在において、捕鯨などよりも混獲や幽霊漁業(流出した漁具による被害を指す)のほうが、鯨類によっては脅威ではないか僕は思うのだが、こういった方面への抗議活動は目につくことはなかった。
定置網自体はかなり昔から存在し、混獲という事象も以前から存在していたものなのに、なぜか今になって動物愛護方面から批判が降って湧いたような状況だ。
鯨類の混獲については、今回のような定置網に関してもあるが、より深刻なのはカワイルカの類やコガシラネズミイルカ(バキータ)に関してだろう。
バキータに関して言えば、絶滅寸前の状況で、かなり以前から保護活動が行われており、最近になってシーシェパードまでが保護活動に名乗りを上げた状況である。
さて、今回の混獲の被害にあったのはミンククジラである。
ミンククジラは資源量も少なくなく、IUCNでの保全状況の評価はLC(低危険種)である。
つまり絶滅の危険は極めて低い種類であり、声高に保護の必要性を叫ぶほどの危険がない鯨種である。
なのに、今回の件だけが批判を浴びることになってしまった。
太地は「活動家たちの晴れ舞台」である
Facebookにて、ある方よりコメントを頂いたが、冒頭にあるように太地町の定置網にミンククジラが流入した時期に、他の3つの地域で4頭のミンククジラが定置網に流入している。
しかし、それらは大きく騒がれることなく、活動家が張り付いている太地町のケースのみがネットの中で大きな話題となった。
太地のケースと他のケースでの唯一の違いは、イルカの追い込み漁であり、つまるところザ・コーヴの影響と言えるだろう。
実際、太地に張り付いている団体リブはどうやらドルフィン・プロジェクトと関係があり、動画などでもスクリーンショットのように団体名が併記されており、太地での活動はリブが現地の活動を行いドルフィンプロジェクトが支援をしているといった共生関係なのかもしれない。
リブにとっては自分たちの活動がアピールでき、ドルフィンプロジェクトにとっては、太地での活動のプライオリティを失うことなく維持できるというメリットが有るのだろう。
他のケースはそうした監視する存在がいないために、詳細な情報が語られることはなく、その理由は、太地という場が「活動家たちの晴れ舞台」の一つとして利用されているからだろう。
現実が見えず、知識がない人たち
報道によれば、以下のようだ(Sankei Biz・魚拓)。
定置網のクジラ、誘導できず捕獲 和歌山・太地町 海外から批判の恐れも
和歌山県太地町は11日、同町沖400メートルの大型定置網に昨年12月24日から入り込んでいたミンククジラ1頭を太地水産共同組合が捕獲したと発表した。ミンククジラは体長6・3メートル、重さ約3トン。同組合は県と協議しながら逃がす努力を続けてきたが、出口まで誘導できなかった。長い間とどまると網の破損などの被害が想定されるほか、網に掛かった魚を水揚げすることができず、影響が懸念されていた。
太地町に居住する米国人ジャーナリスト、ジェイ・アラバスターさんによると、近年、捕鯨やイルカ漁に反対する外国人が町を訪れ、監視活動を続けてきたが、今季は新型コロナウイルス禍で激減。その代わり、日本人活動家が町内に滞在し、漁の様子をネットで拡散するようになった。
このミンククジラの動向は英国などの主要メディアでも報じられており、ジェイさんは「クジラを捕獲したことで町への批判が高まる恐れがある」と話した。
https://www.sankeibiz.jp/macro/news/210111/mca2101111703012-n1.htm
また、別の報道では以下の通りになっている(熊本日日新聞・魚拓)。
和歌山沖の定置網にミンククジラ
https://kumanichi.com/node/50639
年末から逃がせず、漁に打撃も
和歌山県は5日、同県太地町沖400メートルの大型定置網に昨年12月24日から体長4~5メートルのミンククジラ1頭が進入し、逃がすのが困難な状況だと明らかにした。定置網に囲われた場所で漁ができず、設置した太地水産共同組合の経営にも大きな打撃となっているという。県や組合は逃がす努力を続けるが、長引く場合は捕獲も検討する。
県によると、定置網は全長約400メートル。潮の流れが速いこともあり、漁師らはミンククジラをうまく出口へ誘導できないという。
これらの報道に対し、リブは動画などで鯨を逃がす努力を怠っているというような批判をしているようだ。
上の動画を視聴したが、遠く離れた岸から撮影されたものや、ドローンで撮影されたにもかかわらず、船が波で揺れている様子や海面の波が見て取れる。
つまり、作業には支障が出る状況であったのだろう。
途中、日常的に行っているであろう作業なども映されており、それを根拠に作業は可能だったと考えているようだが、その作業の様子でさえ船は揺れており、作業の難易度は上がっていると考えられる。
岸から眺めているだけで作業が可能かどうか判断できるなら、漁業者の側もさっさとミンククジラを逃して通常の仕事に戻りたかっただろう。
混獲したミンククジラを市場に流したところで、今回の損失は補うことはできないだろう。
そしてこちらの動画で捕殺のシーンをドローンから撮影している。
こちらの動画を見て、「ミンククジラを逆さ吊りにして網の外に逃がすだけなら簡単だ」というようなTweetをしている方を見かけたが、かなり弱っている状態で1:45あたりのバタつきをする程度の体力がある生き物なのに、混獲された当初の体力があったら、漁業者は危険で近寄ることもままならなかっただろう。
故に上の動画のように、遠く離れた場所からロープのようなものを投げる程度のことしかできなかったと考えられる。
また、鯨のような動物を尾にロープを掛けて逆さ吊りにしたら、鯨に深刻なダメージを与えることになるだろうが、そのことすら思いつかない人たちに鯨を救うことができるのだろうか?
なお、水産庁が定める鯨類座礁対処マニュアルには以下のような記載がある。
また、尾鰭にロープを掛けての牽引は、たとえ成功したかに見えても鯨の脊椎に重大な損傷を与えるとの報告があり、できれば避けるべきである。
https://www.jfa.maff.go.jp/j/whale/pdf/manyuaru2012kaisei.pdf P.23
牽引の際には幅広のロープを脇下から掛けることが望ましい。
上記の通り、口でいうほど単純でないことは当事者が一番理解しているのだろう。
現実が見えず知識のない人たちに鯨は救えないのだ。
後日談「網にかかったザトウクジラ」
そして先日、同じ定置網でザトウクジラの死骸が発見された。
ミンククジラの前にもザトウクジラが定置網に流入し、次にミンククジラと、今シーズンで三度目の事案となったわけだが、このザトウクジラは発見されたときには既に死んでおり、既出のスクリーンショットのように畝のある部分が膨れていることから、死後相応の時間が経っており、膨れている部分は腐敗によって生じたガスが溜まっているのだろうと推測したが、活動家たちは違った。
彼らは「定置網に絡まり溺れ死ぬ」とタイトルに入れて動画を公開した。
以前にもこの記事で指摘したが、彼らは太地の歴史や伝統に興味を持たなかったあまり、なぜ太地で鯨に網をかけるという手法が生まれたかを知らなかったのだろう。
ザトウクジラは死ぬと沈んでしまうために、突取式の捕鯨では捕獲できなかったが、網掛けの技術によってそれが可能になったわけだが、こうした知識があれば、ひと目見て「死後の鯨である」ということが理解できたはずなのだ。
この度の一連の出来事からはっきりしたことだが、こうした無能な働き者こそが、鯨類や動物を守るという本来の活動に対して、一番の障害になっているわけだ。
こうした活動家やそのフォロワーのような人たちに影響されることなく、常識や知識に裏打ちされた行動力を持った動物愛護家こそ必要なのではないだろうか。