水族館は牢獄か? 

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SNSなどでよく聞かれる「水族館のイルカは短命」という言説は、ほんとうに正しいのか?
水族館はイルカにとって牢獄なのだろうか?
この点について、少し書いてみたい。

鯨類の正確な平均寿命は?

Twitter上でよく見られるツイートの中に、こんなものがある。

この手の主張には、水族館のイルカの寿命が4年になったり、野生のイルカの寿命が50年近いものがあったりと、かなりばらつきのあることは、この手の話題について少し見聞きしていれば、いくつかを目にする機会はあると思う。
この手の話にキチンとした情報ソースがあることはほとんどなく、あったとしても研究をしている当事者の情報ではなく、反捕鯨団体や動物愛護団体のページであることが多かったように記憶している。
実際、こちらの記事の中にある新聞記事中で書かれている情報も、「慢性的な過密と運動不足、汚水、反射騒音などのストレスから、囚われのイルカの寿命は野生時の三分の一に満たないことが多い」と、具体的な情報ソースがなく漠然と短命さを印象づけるだけの内容であったりするが、実際はどうなのだろうか?

野生のイルカの寿命についての調査は、マリンピア日本海こちらのページに記載されている(以下引用)

野生動物の年齢を知るのは非常に困難ですが、 アメリカ(フロリダ州サラソタ)で野生ハンドウイルカの長期追跡調査を行い、 得られた研究データがあるので紹介します。 これによると年令構成は0~50才(うち15才以下 58%・・・1988年)、 死亡時の平均年令は7.5才です。

上記の記述では、平均寿命は7.5歳で、最長寿命がおよそ50歳程度ではないかということが見えてくる。
また別の記事では、こんな情報もわかってくる。(以下引用)

同館によると、15日午後6時頃に尾びれが出始め、約2時間後に出産した。出産直後の赤ちゃんは体長約1メートル25、体重約20キロ。16日午前5時25分頃からアンのおっぱいの辺りに口を近づけるようになり、同日午前11時40分頃に最初に母乳を飲んだことが確認された。バンドウイルカは、生後1年間の生存率が50%以下といわれており、アンは過去2回の出産経験があるが、赤ちゃんはその日のうちに死んでしまった。初乳には免疫物質が含まれており、生存の可能性が高まるとされる。

ネットで検索をすれば、こういった情報はその場で手に入るが、そういったことをせずに彼らが持ち出す話の出処は、おそらくエルザ自然保護の会の、この記事ではないかと思われる。
しかし、この記事についても誰のどんな研究なのかという記述はない。
つまり、どこの誰か解らないような人物によってもたらされる情報を頼りに、太地町や水族館産業を攻撃しているわけだ。

その情報は、誰によってもたらされたか?

では、その曖昧なデータをもたらしたのはどんな人物なのか?
では最初の方に引用した新聞記事の「環境科学文化研究所」の「藤原英司」という人物はどんな人物なのか?
Wikipediaでは、このような記載がされている(以下引用。下線は管理人による)。

藤原 英司(ふじわら えいじ、1933年2月23日 – )は、日本の動物学者、翻訳家。
東京都出身。慶應義塾大学理学部動物心理学専攻卒業。国立科学博物館動物学研究部員、1968年早稲田大学講師、1971年フリー、1976年エルザ自然保護の会を設立し会長。1996年常磐大学国際学部教授(地球生物環境論、環境倫理)。環境科学文化研究所所長。自然保護の啓蒙普及活動により第7回田村賞受賞。 『野生のエルザ』の翻訳者として知られ、多くの動物文学を翻訳。動物園、調査捕鯨の廃止を訴える先鋭な動物保護の思想を持つ。

上記の情報からわかるように、この人物は「エルザ自然保護の会(リック・オバリーが、2006年のセントキッツでのIWCに乱入した際に持ち込んだモニターで再生していた、富戸のイルカ漁の動画を撮影した)」を設立した活動家としての側面も持ち合わせているということだ。
適切な資料が提示されるわけでもなく、こういった先鋭的な立場の人物が主張することを、そのままうのみにすることはとても危険だと言わざるを得ない。

では、実際はどうなのか?
動物園も水族館も、あまり裏側が公開されることがなく、最近になって運営するブログなどでその様子がわかるようになってきたが、イルカを始めとした小型鯨類の飼育の様子がよくわかるものに、太地町立くじらの博物館公式飼育日記がある。
このブログを読んでいけば、物言わぬ動物たちの健康について、どれだけ気を払っているかがわかる。
例えば、日頃からトレーナーが目で様子を見て体調を確認するのはもちろんのこと、目に見えない部分の体調は血液検査や検温などで見極め、その個体に合った薬(ただし、動物用の薬というものが本当に限られるので、殆どの場合は人間の薬のようだ)を、個体に合った方法であたえるように、飼育している鯨類については慎重に飼育をしているようだ。
それでも中には死んでしまう個体もいるわけだが、混獲や幽霊漁業、ソナーなどの脅威にさらされることなく暮らすことが出来る環境があるわけだから、自然の海と比較して、どれだけ生存に適しているかは自明である。

水質についても、天候によって変化したり、排水によって水質が低下する自然界よりも、一定の状態に保たれるプールのほうが、体調を一定に保つことが出来るだろう。
くじらの博物館のクジラショーを行うプールは、地形をそのまま利用した自然のものなので、海水をそのまま利用しており、台風などが接近すると水が汚れるために鯨やイルカは集中力をなくすのだそうだ。
自然環境におかれたイルカや鯨も、その環境特有のストレスを感じていることは、ぜひとも知ってほしい情報である。

また、「イルカがエコロケーションによって仲間とのコミュニケーションをとっているのではないか?」という主張に関しては、確かにそうかもしれないが、すべてのイルカが群れで生きているとは限らない。
例えば、入江などに定住したハーミットドルフィンの中には、一頭だけで生きているケースも確認されており、コミュニケーションが確実に必要というわけでもないようだ。
また、このエコロケーションによるコミュニケーションについても、実際のところあまり解明されておらず、それを解明するのも実は水族館などでの観察が必要になってくるわけだ。

以上、冒頭のツイートについて、思うところを書いてみたが、如何だろうか。
賛成・反対は、個々に色々あるだろうが、他者が真剣に取り組んでいるものについて、憶測や思い込み、確証のない情報などで中傷や批判を繰り返すのは、問題の解決にはつながらないし、建設的な議論にも成り得ないことだけは、ご理解いただければと思う。

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