伝えることの大切さ

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先日「白鯨との闘い」という映画を観た。
アメリカの帆船式捕鯨の様子がとてもわかり易く表現されており、それ故に白鯨の猛威や自然の過酷さがとても良く伝わる作品になっていると思う。
それで、同様に日本の捕鯨の様子を伝える映画があるのかを探してみた。

コンテンツの少なさが物事を伝わりにくくしている

きちんと調べたわけではないので、実際はあるのかもしれないが、日本では過去の、例えば古式捕鯨などを扱った映像作品は見当たらなかった。もちろんメルヴィルの白鯨のようなメジャーな文学作品があればよかったが、C.W.ニコル氏の著書である「勇魚」も映画化には至っていない。

また、商業捕鯨を行っていた当時の様子を記録しているものも少なく、検索した範囲ですぐに視聴できるのは、Amazonプライムビデオで借りることができる「鯨と斗う男」という映画だ。

鯨をと斗う男

この映画は2011年の東日本大震災で被災した鮎川の昔の姿や、沿岸捕鯨の様子が収められていることでとても貴重な資料だ。
当時は特撮技術もそれほど進化していなかったために、捕鯨砲を操る様は役者の演技だが、カットが変わって捕鯨銛が飛んでいき、鯨に命中するさまは実際のそれである。
捕鯨船が捕獲した鯨を岸まで渡鯨する様子や、鯨の解剖シーンなども実際に行われたものだろう。
大漁の際の浦の賑わいも、そうした記録の一つでもあるのだろう(銛撃ち競争は実際にあったか微妙だが…)。
物語としては昭和を感じさせる、今となっては古臭いものではあるが、資料としては価値は大きいと思う。

南氷洋に関しての作品はないか探してみたが、「荒い海」という日活の作品があるようだ。
こちらはDVDなどで販売されておらず、入手ができないようだ。
あらすじが別のサイトに掲載されていて、それを読んだだけではちょっと内容がつかめないかもしれないが、図南丸という船名や別ルート(恐らく新しい漁場を指すのだろう)など、資料をいくつか読んでいると紐づく言葉も登場する。
図南丸に関しては、YouTubeでこのような動画が公開されている。

動画中で、戦前は南氷洋から鯨肉が持ち帰られていない旨が記されているが、消費量の問題もさることながら、持ち帰ったところで食用には到底向かない品質でしか持ち帰れないという事情が大きかったのではないかと思われる。

調べてみると、戦前のドイツの捕鯨母船には冷凍施設のあるものもあり、100t以上の冷凍鯨肉を持ち帰っている。
しかしこちらの図南丸は、初代がノルウェーから購入したもので、第ニ・第三がイギリスから購入した設計図をもとに製造されたものなので、冷凍施設があったかどうかは不明(少し調べてみたい)。
塩蔵の鯨肉の品質は、いわゆる「鯨肉不味い」という記憶が刷り込まれる程度に不評だった(うろ覚えだが、何かの資料で「雑巾を食わされている」という表現があった気がする)。そこから考えると、戦前なら無理して持ち帰るよりも、その分鯨油を持ち帰ったほうが国の利益になるという腹づもりがあったのかもしれない…。

閑話休題。
捕鯨問題などの議論において、「日本人は昔からクジラを食べてきた」という人は多い。しかし、どの様にクジラを食べてきたか、どの様にクジラを活用してきたかを具体的に知っている人はごくごく限られている印象を受ける。
その理由は明白で、そうした話題を扱ったコンテンツが不足しているからで、物好きでもない限りそうした話題を掘り下げて知ろうとはしないし、気軽に観られるものもない。
その状況が「日本人は昔からクジラを食べてきた」という、たしかにそうではあるのだけれど、やや空虚で中身のない言葉に集約されているのではないだろうか。

現在、捕鯨に関する日本発の動画コンテンツを探すと、言及が多いものは捕鯨問題を扱っている2作品だ。それらの作品にも当然意義や役割があり、多くの人に観てもらい、理解される必要はあると思うが、「昔から食べてきたクジラ」について知ることができるようなコンテンツが、もっとあってもいいのではないか。

ちょっと探してみたところ、株式会社シグロという制作会社の作品で、「捕鯨に生きる」と「鯨捕りの海」の2つの作品を見つけることができたが、こうした作品が、もっと日の目を見てもいいのではないかと思う。
さらに、もっと昔の人と鯨の関係性を描いたものが、映画化されるとなおいいのではないだろうか。

例えば、伊東潤著の「鯨分限」や「巨鯨の海」は、太地の古式捕鯨をきちんと表現した作品なので、こうした作品を下地にしたコンテンツがあってもいいのではないかと思う。これらは日本遺産にも指定されている日本の古式捕鯨の資料にもなり、決して無駄なものにはならないだろう。

沿岸捕鯨に関しては、僕も完全に失念していて支援できなかった作品で、残念なことに昨年クラウドファンディングが上手くいかなかった作品があったが、現在も計画自体は進んでいるようなので、こちらを応援していきたい。

南氷洋の捕鯨については、西脇昌治著「南極行の記」という書籍は、南氷洋に向かった人たちの生活が事細かに描かれていて、物語にしやすいのではないだろうか。
というか、僕自身、この本を元に動画を作りかけたのですが、制作が全く進んでおらず、いつかカタチにしたいと思っていたりする。

日本鯨類研究所日本捕鯨協会も、YouTubeのチャンネルがあり、その中でいくつか面白そうな動画を見つけることができる。

こうしたコンテンツは、現状ではパッとしないし、注目を浴びることは少ないかもしれない。
しかし、そうしたものが多くの人の目に触れることで、言葉として用いてきたことを実際に知識として落とし込んでいき、その先の理解につながってくるのではないだろうか。

流石に予算や興行の問題もあるので、なかなか難しいかもしれないが、捕鯨の文化や歴史に関するコンテンツの登場を僕は願っている。

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