2019年7月1日、関係者たちにとっては長年の念願であった、31年ぶりの商業捕鯨が再開された。
残念ながらEEZ内という限られた漁場で、なおかつ調査捕鯨時よりも少ない捕獲頭数ではあるが、これまでの理不尽な経緯を知るものにとっては、仮に二度と南氷洋や北西太平洋の調査海域での調査捕鯨を手放したとしても、得たものはあったのではないかと考えるのではないだろうか。
商業捕鯨再開当日から漁果があり、今まではある意味運でしか手に入らなかった(ツチクジラやゴンドウクジラなど、定期的に捕獲をしていたものを別にして)生のクジラの肉が流通することとなった。
「大して消費されることもないのに、商業捕鯨再開なんてナンセンスだ」という意見も多かったが、実際に始まってみれば評判は上々のようだ。
ネットのニュースなどを参考にすれば、肉質は調査捕鯨の副産物として流通していたものと比較して相当良質で、こちらのニュースでは、
試食会では鮮度抜群の刺し身が振る舞われた。滋賀県甲賀市から訪れた薮和平さん(81)は「馬肉のように柔らかくておいしかった。昔親しんだ味とは大きく違って驚いた」と話していた。
https://mainichi.jp/articles/20190708/k00/00m/040/094000c
と、かなり好評のようだ。この方の年齢なら、恐らく戦後の商業捕鯨初期の鯨肉も口にしたことがあるだろう。
いわゆる「不味い鯨肉」の味を知っているからこそ、今回口にした鯨肉の味を評価できたのかもしれない。
ただ、問題がないわけではない。その一つが価格と販路の問題だ。
調査捕鯨開始直後、マーケットの価格高騰を避けるために商業ルートに積極的に載せることを避けたことや、反捕鯨団体の圧力から、鯨肉という素材について大手のマーケットは否定的であった。
供給が不安定で、なおかつイメージのよくない商品は積極的に扱いにくい。
だから、多くの若い世代の人たちは鯨肉を食したのも見たこともないのは、当然と言えば当然の話だ。
そこから再びマーケットを開拓していかなければならないのだから、新規開拓の責任は重大。
しかも、決して安い商材ではなく、長所を生かすのであればマーケットは潜在的に狭くなる可能性も大きいだろう(少なくともうちの近所ではお目にかかれないだろうなぁ……)。
それでも希望は持ちたい
評価も難しく、値段も安くない商品に対して、マーケットは閉鎖的かもしれない。
特に、薄利多売の経営体質が身に染み付いたスーパーなどでは、なかなか取り扱いは難しいだろう。
取り扱える人材の確保も難しいだろうし、売り方のノウハウを積み上げていくのも難しいだろう。
それでも、美味しい鯨肉を食べられる(供給することができる)環境を手に入れることができたことは、僕らのような鯨食が大好きな人間にとっては大きな希望なのだと思う。
今まで太地町で漁師さんや商店の方から聞いていた「やっぱり生のクジラが一番うまい」という話を、実際に味わうことができるようになったわけだ。
高くてなかなか口にできないかもしれないけれど、商業捕鯨が再開されたからこそ、今まで食べることができなかったものが食べられるようになったのだから、個人的には全ての関係者の皆様に感謝以外の感情はない。
僕と同じように感じている人も、恐らくはいることだろう。
だから、希望を持って、感謝して、その鯨肉を味わえる時を待ちたいと思う。