過激化するアニマルライツとその矛盾

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僕が捕鯨問題について考え始めてから少々時間が経ち、その複雑さからか多岐にわたる切り口をどのように扱っていくかを考えあぐねているうちに、その切り口の一つである「動物の権利(アニマルライツ)」の信奉者たちが、ネットの内と外で、様々な騒動を引き起こしているようだ。
今回は、そのことについて思うところを書いておきたい。

「動物の権利」は「人権」よりも上にあると考える人たち。

まずは最近のニュースから触れてみよう。
数年前からフランスでは、菜食主義者のアニマルライツ活動家による精肉店などへの過激な批判や中傷がおきており、さらにはそれが破壊活動に繋がっているという話は以前からニュースで聞き及んでいたが、今回その破壊活動への判決が正式に出たようだ。
AFPBBには、以下のような記事が掲載されていた(全文引用)

「完全菜食主義者」2人に禁錮刑、精肉店など相次ぎ襲う フランス

【4月9日 AFP】フランス北部リール(Lille)で8日、精肉店や肉料理を提供するレストランなどを相次ぎ襲撃したビーガン(完全菜食主義者)の活動家2人に対し、禁錮1年4月の有罪判決が言い渡された。法廷弁護士によれば、この種の裁判は同国初だという。

 リールの裁判所で禁錮刑を言い渡されたのは、いずれもファーストネームのみが公開された青少年支援員のシリル(Cyrile)被告(23)と幼稚園職員のマチルド(Mathilde)被告(29)。両被告は、ヒトは生物種の頂点にある存在だとして他の動物への差別を容認する「種差別」を否定した「反種差別主義者(anti-speciesist)」運動に参加している。

 両被告は昨年11月から今年2月にかけて、フランス北部で精肉店や鮮魚店、レストランなど多数の商店を夜間に襲撃し、店の窓を破壊して放火した器物損壊の罪で有罪判決を受け、禁錮刑を言い渡された。だが、フランスでは2年未満の禁錮刑については法律で地域奉仕活動での代替が認められているため、被告らは収監を免れるものとみられる。

 裁判では、両被告のほかにも襲撃に加担したとされる2人に執行猶予付きで禁錮6月の判決が言い渡された。

 さらに裁判所は、被害を受けた商店への損害賠償を被告らに命じた。商店が負った事業損失は数百万ユーロ規模に上るとみられる。

https://www.afpbb.com/articles/-/3219904

記事中では「種差別」という言葉が登場するが、これはアニマルライツ信奉者が肉食主義(というものは存在しないのだが、家畜の肉などを食する人を彼らはこう呼んだりする)を批判する際に用いる言葉であり、一般的な言葉ではない。
意味合いとしては、「人間は、それ以外の種(動物)を差別しているから、それらを喰らい、強制的に労働させたり、監禁して鑑賞用に飼育したりすることが許容されるのだ」といったところだろうか。
一般人には理解されにくい理屈なのだろうが、そういった理屈が存在し、その主義主張のために、フランスでは精肉店などへの破壊活動が行われたということらしい。

しかし、ここで一つ疑問がある。
この「種差別」という概念によって、精肉店を生業とする人に対して経済的な損失を与えることが「許される(彼らの理屈では)」というのは、逆の立場からすれば彼らの職業に対する差別であり(中には「精肉店は職業ではない」という発言を伝えている記事もある)、職業選択の自由という人権の一つを踏みにじっているのだが、これもまた種差別の一つではないだろうかと思うのだが、彼らにとっては特定の人間の持つ人権よりも動物の権利は優先されるようだ。

SNSで猟友会に寄せられる誹謗中傷

話は変わるが、日本でもフランスの過激なアニマルライツの萌芽ともいえるような出来事がおきている。
これまでも反捕鯨・反水族館関係の反対運動や、アニマルライツ系の活動家による東京ディズニーランドでの営業妨害行為は一部のウォッチャーの間では興味深いものであったが、その他にもTwitterなどで(違う意味で)盛り上がった「動物はあなたのごはんじゃない」キャンペーンや各地で行われているらしい毛皮や畜産に反対するデモやキャンペーンなど、様々な活動がネットで報告されていた。

しかし、それら以外にもこのようなキャンペーンの標的になりつつあるものがある。それは山村などで組織されているような猟友会の活動である。
Facebookにある某猟友会のページには、害獣駆除の記事と写真が投稿されるたびに、一部のユーザーから過激な中傷のコメントが投稿されている。
その中の一部を引用してみる。

駆除のために殺したということですが、猪も愛する家族がいますよね。あれ、まさか猪には家族愛や感情感覚はないとお思っていらっしゃる❓ 邪魔な存在は殺してしまえ ですか❓ もしそうならどえらい短絡的な解決案ですね😃「すげー」とか「おいしそー」とか言ってる人が居ますが、良心なんて無いんですね😃 人間が一番偉くて人間以外の生き物にはリスペクトは一切無いんですね

この子殺しただけで何も変わらない。無駄な殺傷。
後ろに立つ4つの顔の方が恐ろしい。
正に有害。

クズ本にゴミ津、お前らは鹿の糞でも食ってろ。お前らには、鹿の糞でも上等なくらいだ。おい、この俺のコメントを少しはありがたく思え。この糞野郎共が。

確か去年も こういった 画像が出ましたね その時 私の 批判に 同感する方 中には 猟友会は 合法と 言う方も 
その時は目の前に カラス狐🦊 無論鹿🦌 等を並べ 得意げな顔 皆んな 銃を手に ‼️
食べもんがなければ 木の 皮だって食べるだろう 人だってゴミをあさるだろう 彼らは背いっぱい行きている あんた達も有害 だろう

殺す前に どうして里に 下りてくるか 考えた事 
有りますか? 山はどうなっていますか?
綺麗になり過ぎていますよね 下草さえ生えていない 針葉樹に変わって来ているでしょう
害獣にしてしまったのは人々なんですよ

人間が一番の害獣である事は間違いない。

……順不同で適当に、某猟友会のFaceBookページから引用してみたが、他にも酷いコメントが沢山あり、そうしたコメントを投稿したユーザーの多くはビーガンであったり動物愛護活動に参加しているようで、猟友会の活動について「殺すことは許されない」というスタンスを頑なにとっている。
しかし、猟友会の活動を鑑みれば、それらのコメントは的外れであり、猟友会の活動に賛同するユーザーからも批判されているのが実情だ。
引用したコメントにもあるが、「人間が一番の害獣である」という考え方は、そのユーザー自身もまた害獣であり、駆除される対象になるのではないかとも思えるのだが、その中に自分の存在はなく、現地で活動している猟友会の方々だけが害獣扱いされていることもまた矛盾だといえるだろう。

ビーガンが喧伝する「健康志向」の矛盾

私はヴィーガンになって、健康診断の結果が問題なしになりました。
農作物を守るために殺すとは。
飢えてパンを万引きした少年を撃ち殺すのと同じですね。

先ほどの猟友会のページに僕の意見を書き込んだところ、こんなコメントをいただいた。
それについて、僕はこんなコメントを返した。

あなたの理屈は、残念ながら人間社会においては通用しないでしょう。
そういった「口先だけの理屈」で「現地で苦悩する人」を説得できるはずもないですし、逆にあなたのようは理屈の人が、フランスでは肉屋を襲撃しているのかもしれませんね。

なお、ハーツォグの「ぼくらはそれでも肉を食う」という本によると、アメリカではビーガンの三倍の元ビーガンがいるそうです(2005年CBSニュースの調査による。p.258)。

それに以下の記事を読むと、とてもビーガンになんてなれません。
https://biz-journal.jp/2017/02/post_18140.html

ハーツォグの「ぼくらはそれでも肉を食う」の中には、菜食主義者の抱える健康リスクについて、様々なインタビューや研究論文から、菜食主義と摂食障害の関連性を指摘している。
特にティーンエイジャーが菜食主義者になることで精神的なリスク(うつ病、自信の喪失、ネガティブな世界観)を負うことが雑食の同世代よりも多いという(p.256)。
そしてさらに興味深いのは、健康状態の悪化によって、菜食主義を断念する人が想像以上に多いこと(そしてそれを菜食主義者は言わないこと)だろう。中にはさらなる健康を手に入れることができた稀有な人も存在するが、「なにがあろうと、貧血になるくらいなら死んだ牛を食べるほうがマシ(p.259)」という強烈かつ単純な主張をする元菜食主義者もいる事実は、もっと多くの人が知ってもいいことだろう。
この辺りの話は、「ぼくらはそれでも肉を食う」の第七章で扱われている。
ここで挙げた内容というのはほんのわずかなので、興味のある方はぜひご一読いただきたい。

アニマルライツ信奉者は「反種差別」を唱えながら、自分と主義主張が異なる人たちの存在の否定を躊躇せず、かれらの唱える「反種差別」から派生したビーガニズムに健康志向という価値を喧伝してフォロワーを得ようとしてきたが、実のところ彼らのいう健康志向には語ることができない暗黒面が存在し、どちらも矛盾を有していることを、多くの人の知っていただければ幸いだ。

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