ICJのプレスリリースを読んで考えた。

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ICJによって日本の調査捕鯨の成果が、科学と呼ぶにはふさわしくないという、残念な判断が下されてしまって、ちょっと時間がたったが、にもかかわらず、ICJがどんなことをプレスリリースで書いているかを全く知らずに、多くの人がこの話題について議論している。


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「調査目的といいつつ、実質は商業捕鯨だった」や、「日本の調査捕鯨は継続不能になった」などといった、一体何をソースにした話なのかわからない主張が飛び交っているわけです。

こういった状況で、今後どうするかを考えるのは個人的には不毛な話だと思うので、岩谷さんが翻訳してくださったプレスリリースの日本語訳を見ながら、今回の裁定がいったいどんなものだったかを、改めて見て行こうと思う。

これはJARPA IIにくだされたものである。

まず、日本の何が否定されたのかについてだ。
ネットの論調では「調査捕鯨が実質上の商業捕鯨であった」というものが多いが、ICJはそんなことはプレスリリースに書いていないわけです。
今回問題になっているのはJARPA IIという、日本の調査捕鯨のプログラムの一つのであり、南極海で行われているものでした。
つまり、他の調査捕鯨(日本の沿岸で行われているものや、北西太平洋で行われているもの)は、この中に含まれていないわけです。
また、南極海での調査捕鯨が完全に禁止されたわけでもありません。

裁判所は、第8条の意味に該当する科学研究目的でないいかなる特別許可捕鯨の認可や実行を日本に自粛を要求するという、オーストラリアの要求する更なる対策を命じる必要は見いださない。これらの義務は既に全ての関係国に適用されているからである。

※下線は引用者による

とあるように、適正なプログラムであれば、南極海でも調査捕鯨を再開することができ、日本政府もまたそれに向かって調整を進めているのが現状です。
つまり、調査捕鯨は継続可能で、継続される方向で日本は動いているわけです。
また、これはICJの決めたことに従って判断されています。

ICJはJARPA IIをどう分析したのか?

次に、どうしてこのような判断がなされたかについて、見て行きましょう。
まず、JARPA IIについて、ICJはどのように評価したのでしょうか?

全体として見ると、JARPA IIは大まかには科学研究の特徴を持つ活動を含むと考えられるが、

つまり、全てが全て非科学的ではなく、全体的に見れば科学的なものだと、ICJは判断しているんです。
しかし、次のような判断が付け加えられます。

「そのプログラムの計画と実行が目標とされる物の達成に関して合理的との証拠とならない」と裁判所は思料する。

つまり「調査の手法に難がある」というわけです。
それで、最終的な判断としては、

JARPA IIに関する鯨の捕獲・殺害・処理で日本が与えた特別許可は、条約第8条第1項に従った「科学的研究 [目的] のため」ではないと裁判所は結論付ける。

というところに落ち着きます。
つまり、「調査捕鯨のプログラムとその成果や効率が良くないので、科学調査として難あり。だから、国際捕鯨取締条約の調査捕鯨としては適合しない」としたわけです。

さて、ここまで読んでいただければわかると思いますが「調査捕鯨は、実質は商業捕鯨だった!」なんてことは、ICJは主張していないんですね。
むしろこんなことすら言っています。

裁判所はまた、JARPA IIの目標サンプル量と実際の捕獲量の間に相当の隔たりがある事を見ている。
裁判所の検証では、JARPA II研究計画におけるナガスクジラとザトウクジラの目標サンプル量と実際のこれらの2種の捕獲量の隔たりは、JARPAと比べてより大きなミンククジラの目標サンプル量を正当化する、生態系研究と多重種競合に関連した目標という日本の主張の土台を損なうものである。

「設定捕獲数を満たしていないし、ザトウクジラやナガスクジラの捕獲はしていないじゃないか!」と、不足している項目すら挙げているのです。
もし、食文化や市場を重視しているのであれば、非常におかしなことです。
ナガスクジラもザトウクジラも、とても美味しいクジラですから、食に重点をおいているなら、まず最初に捕獲するはずなのです。
ミンククジラが充分に捕獲できていないのに、どうしてこれらを捕獲しなかったのでしょうか?

「在庫調整」論の嘘

よく「在庫が沢山あって売れない鯨肉」という報道がありますが、ナガスクジラに関しては、アイスランドから輸入している日本ですから、きちんと捕獲しても、輸入量を減らせば在庫になることはなかったでしょう。
ザトウクジラにいたっては、販売されたらすぐに売り切れてしまう可能性だってあります。
しかし、それらを捕獲していなかった。
つまりは、在庫調整というような単純な理由ではなかったと言えます。

では、なぜその二つの鯨種は捕獲されなかったのでしょうか?
捕獲頭数を満たすことができていなかったのか?
ICJの判断は、この部分への考察が足りなかったと、個人的には思います。
この二つの鯨種に関して、オーストラリアなどの反捕鯨国の猛烈な反対があったために、捕獲を自粛していたということを、ICJは評価しませんでした(Wikipediaでさえ、こんな情報が乗っています)し、ただでさえ過酷な環境の南極海で、シー・シェパードなどの妨害を受けながらの調査など、効率が上がるわけがありません。

この動画の0:30以降から一分ほど御覧ください。
これは最後の商業捕鯨のシーズンの動画ですが、常にこんな悪天候ではないにしても、「吠える40度、狂う50度、叫ぶ60度」といわれるほど荒く凶暴な自然と対峙しながらの調査となるわけで、近年、調査捕鯨の結果などで天候の不順という報告が出てきていましたが、このような悪天候が長く続けば、調査の成果も予定通りに行かないのは理解できると思います。

日本の調査はどんな評価を受けていたのか?

では日本の調査捕鯨の評価についてですが、こんな資料があります(リンク先PDFです)。
この資料の「③鯨類資源のストック」という項を読んでいくと意外なことがわかってきます。

「IWCの2回にわたる目視調査(SOWER /IDCR)を解析した結果、一巡目では72万頭、2巡目では51万頭を合意された。2巡目のミンクの数は30%減だが、数字は、過小評価のきらいがある。調査区域以外にもミンクがいる。低下の理由は今後の検討。日本が専用の目視調査をやることを、科学委員会は許可した。しかし、反対団体の行動によって、調査が中断されたことは、大変残念に思っている」と述べた。これは、シー・シェパードの妨害活動を指したものである。そしてまた、科学委員会は、IWCの存立基盤である国際捕鯨取締条約の第8条に基づいて、日本が実施してきている調査捕鯨の科学的価値の高さを評価しているということである。

さて、皆さんはこの部分を読んだあと、どんな感想を持たれたでしょうか?
IWCの科学委員会は、日本の調査捕鯨の成果を認めているのです。
「科学的調査とは名ばかりの、実質商業捕鯨だった!」という人たちは認めたくないかもしれませんが、IWCの科学には、日本の調査捕鯨は認められていたことになります。
それもそのはずで、現在、南極海でしっかりとした調査を行っているのは、ほかならぬ日本だけで、他の国が共同で行ったSOAPというプログラムによって行われた調査(AWE)は、あまり芳しい結果を残すことはできませんでした。
しかし、今回のICJの判断は、そうしたIWCの科学を否定するものになっているわけです。
個人的には、これで、商業捕鯨モラトリアムや鯨類サンクチュアリのようなものについても、科学的な側面から再度検討すべき時期に来ているのではないかと思いますが、次のIWC総会では、どのような議論が起きるのか、注目してみたいと思います。

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