調査捕鯨は調査である。

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「調査捕鯨」は、「捕鯨」の面のみがクローズアップされていて、その前にある「調査」の部分への評価がされていないように思える。
ところが、そのような指摘をする人の多くが、調査捕鯨の「調査」が一体何かということを知ろうとはしない。

目視調査とライントランセクト法

そもそも、捕鯨のみが目的であるなら、今までよりも遥かに少ない費用で効率よく操業が可能で、事情を理解しない人たちから批判されることも無いわけですが、費用が高額になるのは、これが調査を伴うからで、調査というものは得てして効率だけを追い求めればいいというものでもない以上、通常の操業よりも費用がかかることは、当たり前といえば当たり前です。

例えば、調査捕鯨の航海には、ライントランセクト法(線状調査法)という、通常の操業から考えれば非効率な方法が用いられます。以下、その説明を「捕鯨ライブラリー」「鯨の数を数える」から引用します。

線状調査法(ライントランセクト法)
生物の全数を数えることは、その生物集団の量を推定する最も直接的で素朴な方法で ある。 しかし、普通生物集団は広い範囲に分布しており、すべての個体の数を数えることは 大変時間と費用がかかり、不可能ではないにしても非現実的である。 さらに対象とする動物が自由に動き回るものであったり、単位面積あたりの密度が 小さい場合などは実際的な方法ではない。 この様な広い地域に分布し、その密度が小さくかつ動き回る対象等に対して開発された のが 線状調査法(以下ライントランセクト法) である (Wildlife Monograph 72,1980)。
ライントランセクト法では、あらかじめ設定された調査線上を観察者 (船・飛行機・自動車・人間)が一定の速度で移動し、調査線付近で発見された個体の 数と関連する情報(特に、個体の位置から調査線までの距離)を収集する。
今、簡単に理解してもらう為に、調査線から距離 w 以内の個体はすべて発見される とすると、有効に探索した面積は、調査線の長さを Lとすると、2WL(調査線の 両側 2w)となる。 この 2Lw の面積内に n 個の個体が発見されたとすると、有効に探索した面積内 での個体の密度(D)は
D = n/2Lw
と推定される。ここで有効に調査された調査海域の面積を A とすると、調査海域内の 総個体数(N)は、
N = D・A = nA/2Lw
となる。 なお、実際には個体の発見されやすさや見逃し率等いくつかの要素が考慮されている。

ライントランセクト法(捕鯨ライブラリーより)

ライントランセクト法(捕鯨ライブラリーより)

そして、そのライントランセクトと呼ばれる方式による航海の経路が上の画像です。(こちらも捕鯨ライブラリーの画像を加工したものです)。
このように規則的な航路を一定の速度で航海し、目視によって洋上の鯨類の数を数えることも、この調査には大切な要素で、それによって個々の鯨種の資源状態が把握可能になるわけです。
例えば、乱獲によって最も大きな被害を受けた南極海のシロナガスクジラの、現在の資源状況がどうなっているのかも、こういった地道な調査の結果、ごくごく僅かではあるが増加傾向にあることが、先日の報道でも確認できます。
初期に行われた調査では、700頭程度しか存在しないのではないかと推定されていたわけですが、その報告から約20年で、3倍程度まで増加したことがわかってきます。

確かにこれは、初期資源量の約25万頭から考えると、ごくごく僅かな数でしか無いが、絶滅してしまったとされるヨウスコウカワイルカの存在を鑑みれば、まだまだ希望は大きいはずです。
シロナガスクジラの数をどうすれば増やすことが出来るか?
その研究が始まったとしても、結局同じ計測方法で資源評価がされますから、この調査は必ず誰かがやる必要があるはずなのです。

誰が資源状況を見守ってきたか?

ところがです。
この調査を最初から参加して、継続的に現在まで行っている国は、世界に一つしかありません。
それが、「調査捕鯨」で世界からバッシングを受けている(と、反捕鯨団体が主張している)日本という国です。
本来なら、シロナガスクジラを最も多く捕獲したであろうノルウェーや、その次に多く捕獲したと言われているイギリスあたりも協力して、シロナガスクジラを絶滅から救うべく、増加傾向も見守り、増加が停滞している現在の打開策を模索するというような、協力体制が敷かれるのは当然じゃないだろうかと僕は思うのですが、何故かこんな重責を、日本だけが担っているのが現状です。

今回は、目視調査とライントランセクト法の話を少し書きましたが、調査捕鯨と呼ばれている一連の航海では、当然それ以外の調査も多く行われているわけです。
実は以前にも、同じような記事を書いたのですが、未だにその調査のことをほとんど知らずに、「これは擬似商業捕鯨だ!」と批判する人が多いんですが、そういった主張をする人は、これらの調査がどんなものかをほとんど把握していないことが大半で、調査捕鯨の他にもIWCと共同で行われる非捕殺の調査があることも、その調査で用船される調査船が、日本の調査捕鯨でも用いられているキャッチャーボートだということも、そして、こういった目視の調査が行える人材がいるのも日本だけだということも、知らないのではないでしょうか?

南極海の鯨類資源の回復を、心から願っているのであれば、是非こういった調査の話にも耳を貸していただきたいものだと、個人的には思います。
資源量を激減させたのは、たしかに人間です。
しかし、激減させてしまった資源を、何とかして増やさなければならないという責任も、人間にはあると思います。
そのためには、南極海の生態系をより深く把握し、環境をコントロールしていく必要があるのではないかと、僕は思います。
そのためにできることが、日本にはあるわけですから、過酷な現場で調査に携わる皆様には、自信を持って頑張っていただきたいですし、無事に調査を終えてほしいと心から願ってやみません。