鯨肉と水銀汚染と水俣病、その根拠なきロジック。

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ザ・コーヴ

ザ・コーヴ以降、延々と語られているハクジラ由来の鯨肉に関する水銀汚染と水俣病を結びつけるロジックについて、そろそろ自分なりの反論を書いてみたいと思う。
おそらく、きちっと調べられれば、さらなる論拠は出てくるはずなので、よければ参考にしていただきたい。


虚構の作品「ザ・コーヴ」

虚構の作品「ザ・コーヴ」

水俣病の背景を無視した「鯨類と水俣病」の関連付け

ザ・コーヴをご覧になった方なら、水俣病を患った人たちの生々しい叫びの前に、恐らく心を痛めたのではないかと思う。
僕自身もそのシーンは非常に心を打たれたし、画面上に映った人たちの無念さは、心の中にしっかりと刻まれている。
しかし、このシーンがなぜザ・コーヴに挿入されているか、なぜザ・コーヴの中で水俣病の話が語られるかというあたりの疑問は、非常に無理があるのではないかと、以前から感じていた。
それで水俣病について調べてみると、当時の水俣の人たちは、目の前に広がる不知火海(八代海)の恵みを食の中心に据えていたことがわかってきた。


大きな地図で見る

地図をごらんいただければわかると思いますが、この海域はかなり閉鎖的で、水質の汚染が進むとなかなか正常化しそうにない地勢にありますから、チッソの工場から排出された汚水は薄められることなく、長きにわたって海を汚していったわけです。
そして、不幸なことに、その海域で捕れた魚を主食としていた人たちの健康を冒していってしまった。
それが水俣病という公害病が発生した理由のはずです。
そこには当然「クジラを食ったからこうなった!」という話はありませんし、どこでも同じことが起こるなどといった話でもないわけです。
それがなぜか和歌山県の太地町、ひいては日本国民の健康を冒すような話に誇張されてしまっている。
これは太地町の方々どころか、水俣病を発症した人たちへの誤解にもつながりかねないと、僕には思えるのです。

「主食が魚であった」という生活

「主食だが魚だった生活」を思い描くのはなかなか難しいと思うので、水俣病についてまとめたレポートから、当時のことが分かりやすそうな部分を引用したい。

不知火海は、九州本土と対岸の天草諸島に囲まれた穏やかな内海で、魚種の豊富な海域で、大潮のときは3mから4mも潮の満ち引きがあり、そのなかで稚魚達は育ち、なかでも水俣湾周辺は、天然の漁礁に恵まれた魚類の産卵場であり、過去には、入り組んだリアス式海岸沿いに、豊かな漁場の恩恵を受けた小さな漁村が点在し、漁師達は金銭的には富んでなかったが、恵まれた海とともに自足した生活を営むことができた。
 海際の家に住むものは、客人があれば、やかんを火にかけて浜に下り、魚やタコを捕って戻るとちょうど湯が沸き始める頃であったといわれるほど魚影が濃く〈〉、大漁の日には、カタクチイワシ、タチウオ、アジ等の魚が干し場がなくなるほど網上げされ、またビナと呼ばれる小型の巻貝や、ナマコ、アサリ、カキ、カニ、ウニ、シャコなどは浜辺において子供たちにも簡単に取れるものであり、子供たちのおやつ代わりや、漁師以外の職につくものも浜に出てはそれらのものをとり夕餉のおかずとするなど、地域住民にとっても貴重な蛋白源採取の場であり、不知火海は魚が湧く海と形容されるほど豊かな海であった。
 このような生活風景は昭和20年代頃までみられ、いまも水俣では多くの魚介類がとれ、磯釣りを楽しむ人や、海水浴・観光を楽しむ人も多く、海の恩恵を多く受ける町である。
水俣病はこのような町で発生し、水俣病により不知火海などの自然環境や産業、そして人間関係も一変することになったが、この原因企業がチッソであった。

この部分からもどれだけ不知火海が豊かな海で、当時の水俣の人達が、その海に依存していたかがわかると思います。
では、現在この国で、当時の水俣の人たちと同じような暮らしを営んでいる人が、一体どれだけいるのでしょうか?
日本中探しても、それほど豊かな漁場が点在しているわけではありませんから、ごくごく限られた人たちだけでしょう。
では、太地町の人はどうでしょうか?
太地町の方々は、同じレベルでイルカやゴンドウクジラの肉を食べているのでしょうか?
だとしたら、どうして太地町で水銀による健康被害が起きていないのでしょうか?

問題解決につながらない活動は何ももたらさない。

また、生体濃縮による水銀濃度の上昇と、工場排水による海洋汚染を意図的に混同することや、水産加工品を常食する傾向の少ない現代人に対して、過剰に水銀の害を喧伝するのも、とても卑怯なやり方とも言えます。
鯨類と水銀汚染の情報については、そのどちらに対しての情報も持ち合わせていない一般の人たちには、「毒性のあるものを食べさせるなんてけしからん」というような意見に誘導されてしまうだろう。
水銀を多く含有する海産物については、厚生労働省が指導を行なっている。また生協のサイトには更にわかりやすい情報が公開されているわけですが、それらも無視して危険を声高に訴えることや、鯨肉で問題になっている生体濃縮とはあまり関係ないと言える水俣病の事例や工場排水をイメージさせる演出などは、水銀恐怖症とも言える人たちを環境左派の活動へ誘導するように機能すると考えられる。
このような人たちの活動が、なんら問題の解決に繋がらないのは、2011年3月11日に起きた東日本大震災に由来する原発事故以降の「過剰な放射能恐怖症」に陥った人たちの言説を見れば明らかであり、その地域で生きる人達に捕鯨やイルカ漁以外の生活の術を提供できるわけでもなく、ただただ当事者を孤立させるだけの結果しか見いだせていないのだ。
こういった活動を推進する人物は、基本的に問題を解決しようなどと考えていないことが非常に多いということを、もっと多くの人が知るべきではないだろうか?

嘘はどれだけ盛っても嘘にしかならない

今回、ザ・コーヴという映画の水銀汚染の部分だけに注目して記事を書いてみましたが、この映画がどれだけの嘘にまみれているかは、すでに多くの方がご存知だと思います。
ところが、先鋭的な動物愛護活動を好意的に受け止める人達の間では、未だに鯨類と水銀汚染は結びつけて語られ、ありもしない健康被害に恐れおののく人たちを生み出しています。
そもそも、水銀という物質は自然界に存在し、誰もが摂取しているわけなのですが、そういった事実を知らずに過剰に忌避するのは、内部被曝を過剰の恐れるばかりにバナナが食べられなくなるのと同じくらい馬鹿馬鹿しい話です。
それに、時代が変わったことさえも全く語られることなく、「水銀に汚染されたイルカを食べると水俣病になる」などという、恐るべき短絡した印象操作をそのまま信じられる人にも驚かされてしまいます。
今の世の中、イルカやクジラの肉だけで、空腹を満たす人が、いったい何人いるのでしょうか?
恐らく、そんな裕福な人間はいないでしょう。
それだけ鯨肉は高価なものですし、イルカの肉は都心部では手に入りません。
イルカ漁を行なっている地域でも、毎日は食べないでしょう。
そういった事実を無視したザ・コーヴの構成は、嘘に嘘を盛っているといっても言い過ぎではないと思う。

嘘は、どれだけ盛っても嘘でしかない。

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