鯨の町の選挙に思うこと

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

2016年7月17日、和歌山県の2つの場所で、選挙が行われ、どちらも歴史的な選挙となりました。その片方である太地町の町長選挙の風景を垣間見て、少し考えました。
 
 

ヨソモノの違和感

 正直に思ったことを書くと、とても違和感のある選挙でした。
ある部分羨ましくもあるし、ある部分は「本当にそれで成立するのか?」が、本当に不思議に思えました。
まず、アイキャッチの画像をご覧いただくと、その一端を感じる人がいるかもしれませんが、選挙のポスターには工夫らしいものがなく、氏名のみが掲載されています。
僕が住んでいる一宮市では、まずありえない光景でした。
基本的に候補者の写真があり、そして氏名や大まかなプロフィールがわかるような情報や、政策のスローガンを書かれているものだと思いますが、現職の三軒候補のポスターには氏名のみ、三好候補には「汚職議員職員の根絶」という意味深な言葉が添えられてはいるものの、基本的に氏名が中心で、他の補足情報はほぼない状態でした。
さらに、聞くところによれば、三軒候補は選挙演説らしきことをほぼ行っていない様子で、三好候補も漁協スーパーの前で一度演説があったという話を聞きましたが、おそらくそれほど演説の回数を重ねることなく選挙当日を迎えたようです。
 
状況的には、三好候補の突然の立候補で、降って湧いたような選挙戦だったとうこともあり、準備期間が全く無かっただろうということは想像に難くないとしても、有権者のことを考えるのであれば、特に三好候補は積極的に情報を発信しなければならなかったのではないでしょうか?
しかし実際はそうではなく、何が争点なのかがよくわからないまま、選挙が行われたように感じられました。
 

町政は誰のためにあるのか?

選挙前のニュースをちょっと引用してみます。

無風から一転選挙戦に 太地町長選

任期満了に伴い12日に告示された和歌山県の太地町長選に4選を目指して立候補した現職の三軒一高氏(68)=無所属=のほか、元町議でレジャー会社役員の三好晴之氏(73)=無所属=が同日午後に「無投票を阻止する」と立候補を届け出た。選挙戦は2004年以来12年ぶり。投開票は17日。

 2人は三軒候補が初当選した04年の町長選でも一騎打ちの選挙戦をしており、市町村合併について三軒候補が単独、三好候補が合併の必要性などを訴えた。

 三軒候補は「30年計画を立てて取り組んでいる」としており、クジラの学術研究都市を目指すほか、4期目では道の駅の整備、保育所・幼稚園や小学校の高台移転、駅の建て替えなどを進めるとしている。

 選挙戦になったことについて「これまでやってきたことが問われるので、頑張って訴えていきたい」と話した。

 三好候補は出馬の理由について「無投票が2回続いており、町民が自分の町に対する思いを投票する機会がなかった。今回もそういう状況で、それは町に活力がないことの象徴」と述べた。

 具体的には、南紀観光の拠点となるよう「町立くじらの博物館」をリニューアルし観光立町を進めること、職員の綱紀粛正などを訴えている。

 投票は17日午前7時~午後7時に町内4カ所で行われ、午後8時から町公民館で即日開票される。

 
※太字は僕によるものです。
 
太字にした部分について、僕はとても違和感を感じていました。
確かに、無投票で町長か決まるということは、僕としても少々問題があるとは思いますが、それと町の活気のなさが繋がっていないのではないかと思うのです。
 
以前に僕は、太地町のことを「寒村」と表現して、地元の方からたしなめられたことがあります。
最初に来た時は、寂れた町だという認識がありましたが、何度も足を運ぶうちに、その認識はかなり変わりました。
太地という町は、南紀の中でも不便な場所にあるにも関わらず注目度も高く、2011年の大水害以降は、町の規模の割に多くの観光客が訪れており、活気がある方ではないかと感じています。
 
そして、最近話題になりました日本遺産に選ばれた「鯨とともに生きる」というストーリーの中でも、太地という場所は大きな意味を持っていますし、南紀熊野ジオパークの活動の中でも、太地の方々の活動は注目するに値するものではないかと個人的に思っています。
観光という方向で考えるとするなら、「南紀観光の拠点となるよう」という「ないものねだり」をしなくても、できることをし続けていけば、これからさらに活気をもった町になる要素はあるわけです。 
 
ふと、三好候補は町の現状を、あまり理解されていなかったのではないかと感じました。
別の記事では、三好候補の出馬の動機について、こう書かれています。

(前略)三好氏は町議だった04年、町長選に立候補し、三軒氏に敗れた。立候補の届け出後、三好氏は「無投票は町の活力のなさを示すものだ。せっかく選挙権年齢が18歳以上に引き下げられたのに、3期連続で無投票になるのは寂しい」と、出馬の動機を語った。(後略)

※太字は僕によるものです。

ここでも違和感を感じます。
少子高齢化の著しい町において、選挙権の年齢引き下げが、有利に働く可能性は薄いでしょう。
もし現状をきちんと認識していたとしたら、それが動機になることはなかったでしょう。
だとしたら、出馬の本当の理由は一体何だったのでしょう?
誰のために町長になりたかったのでしょうか?
誰のための町政になる予定だったのでしょう?

実際にしてきたことを続けるという三軒候補の言葉と比較すると、具体性が見えてこないのです。

 

博物館の努力は評価されるべき

当日の熊野新聞の一面に、この選挙の記事があり、こんなことが書かれていました。

■三好晴之候補の政策

「捕鯨に頼るのはやめようと博物館を中心とした観光立町を目指して、みんな頑張ってきた。私も半生かけてやってきたきたこと。今の町づくりはちょっと違う」と語る三好候補。博物館職員、町議、観光業で深く鯨類と関わってきた。博物館で飼育していた目玉的存在のシャチ・ナミが
売られたことや博物館が時代に合わせたリニューアルができず廃れてきていると懸念する。鯨の海構想についても「具体性がない。湾に仕切りを作るのもまず技術的に出来ない」と指摘する。政策としては調査捕鯨からの撤退と沿岸捕鯨の再開、くじらの博物館の再興を掲げている。町職員の網紀粛正も掲げており、「汚職議員職員の根絶」を目指す。是会選挙では那智勝浦町との合併に賛成羽として政策を訴えてきた。現在合併に向けての具体的な政策は考えていないものの「太地の鯨、那智勝浦町のマグロ。南紀観光の広域的な取り組みが必要」との根本の思いは変わっていないという。

※太字は僕によるものです。
 
僕が最近お世話になっているからいうわけではありませんが、博物館は頑張ってます。
最近は良くないニュースもありましたが、限られた予算の中で、展示を工夫したり、ショーの工夫をしたり、できることをしているのです。
インバウンドの観光客の受け入れも進んでおり、未だに太地町の観光の中心的な存在を担っているのは事実です。
難しい問題を抱えつつも、減ってしまった入場者数を着々と元に戻しつつあるのです。

むしろ、三好候補の掲げる「博物館の再興」が実行されたとしたら、具体的にどうなるのでしょう?
博物館の展示をみていると、刷新されていない展示の中にミヨシという言葉を見つけることができました。
2016-07-17 14.29.10_s
こういった展示が増えるのでしょうか?
博物館の売店では、自著のリニューアル版が販売されるのでしょうか?
個人的には、現在あるドルフィン・ベェイスや和歌山マリーナシティーのドルフィンパークとの関係性がどうなるのかも気になります。
どちらにしても、博物館が私物化されるのではないかという懸念が僕の頭をもたげるのです。
 
 

未来のために願うこと

結果としては、三好候補は当選することはありませんでした。
次の町長選挙がいつ行われるかは、誰にもわからないと思います。
ただ、いつかこの町に移り住みたいと考えている僕としては、今回の選挙のようないくつも「?」が並びそうな出馬理由ではなく、選挙に出馬するに足るだけの動機をもった若い人が、きちんと準備して、町の行く末のために戦って欲しいと思います。
その時は、双方の演説をきちんと聞いて、じっくり考えて投票したいです。

あ、あとさ……。
選挙ポスターもかっこいいの作りませんか?
いくらどこの誰だとわかっていたとしても、やっぱり名前だけじゃ寂しいですよ。
 
 
追記:
20167024
記事中に「汚職議員」とあるが、「汚職議員」ではなく「汚職職員」ではないか」と地元の方に指摘していただきましたので、訂正させていただきました。
ご指摘いただきましてありがとうございました。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る