調査捕鯨について基本的な話を少し

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先日から、調査捕鯨に関して「義援金が使われている」だの「復興予算が不当に投入されている」だのといった、正確ではない情報が、意図的に流されているようですが、まあ前者は当然嘘っぱちだとして、後者が正確でないといえる理由は、押さえていくべきではないかと思います。

調査捕鯨の目的って本当のところは何だろう?

日本はどうして鯨類に関する調査を行なっているのかは、3つの目的があります。
1つは正確な生息頭数を知ることで、人類が行なってきた乱獲によって減少した鯨類資源の回復状態を見極めるという目的です。
ここで人類とした理由は、当然のごとく鯨を捕獲していたのは日本人ばかりではないという意味からで、逆説的に言うならば、IWCで反捕鯨陣営に名を連ねている元捕鯨国は、そういった目の前にある現実や抱えているはずの問題から逃避するために捕鯨に反対しているといえなくもありません。
そうでなければ、真っ先に鯨類調査を行わなければならないのは、むしろ彼らなのですから。
現に、南極海で致死・非致死問わずに鯨類調査を現在まで持続的に行なっているのは日本だけなのです。
そして、ご存じない方も多いでしょうが、IWCの行う目視調査においても、用いられるのは日本の船なのです。

もう1つが、回復しつつある鯨類資源をより深く知り、よりよい活用方法を探るという目的です。
例えば、鯨類資源の捕獲がどの程度まで許されるのかや、どの様に成長し、どのような一生を送るのか、何を食べ、どの様な脅威にさらされているのかなど、様々な観点で研究をするためなのです。
こういった調査は、頭数を把握したり、皮脂や便を採取したりして分かる範囲では、足りないことが多いのです。
例えば、ひとつの鯨種が、何歳の鯨で構成されているかということは、その鯨種の寿命や成熟の速さを知る手がかりになります。
それらを知る一番確実な方法は、ハクジラでは歯、ヒゲクジラでは耳垢栓(耳の垢)などに刻まれる年輪を数えることで知ることができるが、それらは鯨を捕殺しないと採取できない。
他にも、胃の内容物から、どの魚種をどの程度食べているかを判別したり、外傷から外敵の存在を知ることができたりなど、捕殺された鯨類から知ることが出来る情報は非常に多い。
そうでなければ、どうして国際捕鯨条約に「調査捕鯨」が例外として認められているだろうか?
生息頭数もさることながら、成長のスピードを把握できなければ、その鯨種がその海域でどの程度捕獲できるものなのかさえ、把握できるはずはありません。

最後に、「技術を忘れてしまわない」ためです。
本来、既に解除されているはずの商業捕鯨モラトリアムが解除されたときに、実際に捕鯨を行えるように備えなければならないからです。
捕鯨というのは、単に捕鯨砲を鯨に撃ちこめばいいというものではありません。
上に掲載したような、過酷な環境で捕獲対象の鯨種を噴気(ケ)や体色などで見極め、捕鯨砲を命中させなけなければなりません。
そして、捕殺した鯨を悪天候の中で船の横に固定して(抱鯨)、母船に運ばなければなりません。
その後、採寸やサンプルの採取、解剖、部位を分類して製品化すること。
これらすべてが南極海での「捕鯨業」なのです。
商業捕鯨が再開された際に、それらの作業に手間取って、鯨の命を無駄にしないように、そして苦痛を長引かせないように、スムーズかつ確実に作業が行えるよう、備えておかなければ意味が無いのです。

調査捕鯨の費用はどうやってまかなっているのだろう?

そして、今回問題になっている調査捕鯨の予算についてですが、基本的にその予算の大半は、調査捕鯨によって生産された副産物の売上によって賄われています。
副産物という言い方は、あまり一般的ではないので説明しますと、調査によって捕獲された鯨類からサンプルを採取したあとの、余剰部分を製品加工したものを「副産物」と呼んでいます。
こう書くと、「じゃあやっぱり商業じゃないのか」という人が恐らく多いのでしょうが、では「廃棄せずに無償でそれらを活用できる方法があるのか?」という問題が出てきます。
なぜなら、これは国際捕鯨条約の8条で決定されていることなので、出来る限りの範囲で、有効に活用しなければならないのです。
流通コストや二次加工に包装、そして店舗で販売するための人件費などは、どうしても金銭が必要になってくるものです。
資本主義社会で、無償でそれらを行うことはまず不可能でしょう。
このことを書くと、「条約の抜け道を悪用している!」という指摘もあるでしょう。
しかし、例えば南極海に生息するミンククジラ資源などは、より確実に調査しようとするなら、今よりも更に捕獲頭数を増やさなければいけない(推定される母数が非常に多いため、現在の捕獲頭数では、研究に必要なデータを偏りなく測定するためにはサンプルとして不足している)というのが実情で、それらを無駄にしないためには「食べてもらう」以上にいい方法はありません。

そして大きく取りざたされた、復興予算に含まれる、捕鯨関連予算の増加についてですが、東日本大震災の津波被害で被災した地域が、かつては捕鯨によって成り立っていた地域であったことが、その理由だということを多くの人が知らないで批判していることが問題です。

この動画でも語られていますが、被災した地域がかつて一大捕鯨地であり、多くの人を南極海へ送り出した場所でもあります。
今後、商業捕鯨の再開を前提としてあるのであれば、この地域への復興に大きな影響をあたえるはずです。
そのためには、安全で確実な調査が必要になり、現在の調査において一番の障害になりうるエコ・テロリストへの対応は、きちんとしておかなければなりません。
今後の産業や地域の復興と調査捕鯨は、決して結びつかないものではありません。
政府は、この点において、しっかりと宣言する必要があるのではないかと思います。

調査捕鯨の捕獲頭数は適切なの?

多くの国の報道では、捕獲される頭数が批判の対象になっていますが、日本の鯨類の捕獲調査は、南極海で何頭くらいの鯨を捕獲しているのでしょうか?
これらの調査ではミンククジラを850頭(プラスマイナス10%)を目標に捕獲を行なっていますが、これは本当に多いのでしょうか?
現在推定されている南極海のミンククジラの生息頭数は1990年代に調査された時の761,000頭から下方修正して、およそ40万頭ではないかと考えられているようですが、それでも1%で4000頭です。現在調査捕鯨で捕獲している頭数の5倍近い数です。
そして現在そのミンククジラが一年間で増加する割合が全体の4%だと考えられていますから、毎年16,000頭は増えているのではないかと思われます。
その豊富な資源を、RMS(改定管理制度)と呼ばれる非常に厳しい方法(どんなことがあっても絶滅する可能性がないような捕獲頭数を計算をすると考えればいいでしょう)で、確実に持続できる南極海に棲むミンククジラの捕獲頭数を測定したとしても、100年の間、1年間に2000頭捕獲することが可能だということも、IWCの科学小委員会が推定しているのです。
それだけのミンククジラが生息する海域で、生態調査を行うのに、どうして非致死調査のみを行わなければならないのか、疑問だとしかいいようがありません。
逆に、目視調査を中心とした、ニュージーランドとオーストラリアが行った調査(AWE)では、様々な原因によって、結局大した結果がえられなかったことが実情で、継続的な調査は行われていない。
「殺さなくてもちゃんと調査はできる」といいつつ、結局は大した調査をしていない国々ばかりなのだ。

鯨類の調査は捕獲調査だけなの?

日本の鯨類調査は、何故か捕殺行為を伴う捕獲調査のみが強調されるが、目視調査や皮脂のサンプリングなど、鯨種に応じて使い分けて調査を行なっている。
その理由は、鯨種によって生息頭数が異なり、希少な鯨類に調査によって捕獲圧をかけることが、別のリスクになりかねないため。
また、前述したIWCによって行われる調査は目視調査が中心であり、捕鯨行為は行われない。

 

ざっくりと書いてみたが、基本的に調査捕鯨について批判する人は、調査捕鯨について、詳しい知識を持っていないことが多く、印象のみで批判していることがかなり多い。
そういった批判に納得する前に、検索エンジンで調査捕鯨について、若干でも調べて欲しいと思う。
冒頭に載せている動画は、南極海での捕鯨がどれだけ過酷かを知っていただきたくて、今回載せています。
かつて、あなた方の親や祖父・祖母の世代の人は、こういった場所で捕獲された鯨類資源を食べて育っているはずです。
そして今もその営みは、姿を変えて続いています。
この過酷な自然の中で働いている人たちに、正当な評価をして欲しいと、ぼくは思うのです。

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