疑問の残る「非致死的調査」の確実性

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前回は、調査捕鯨などで行われている目視調査にスポットを当てて、調査捕鯨の調査の部分を解説してみたが、今回は非致死的(捕殺しない)調査の実際について考えたい。

非致死的調査にはどんなものがあるのか?

調査捕鯨に反対する人の大多数は、調査捕鯨の捕鯨の部分のみに反応し、その調査の実際について積極的に知ろうとしないことについて前回は書いたが、では非致死の調査とはどんなことが行われたのだろうか?
そのことは、「クジラを追って半世紀(著:大隅清治)」という本のP.170-P.171に書かれています。
少し前に購入したのに、まだ半分くらいしか読めていない本なので大隅清治博士には申し訳ないのですが、この部分を少々長いですが引用させていただきます。

~ 前略 ~
鯨類に対する非致死的調査としては、目視調査、音響調査、バイオプシー採集、衛星標識調査、データロガー調査、個体識別調査、糞調査、環境調査、飼育調査、などが挙げられている。
それらの中で、目視調査は、鯨類の発見に関係するので、鯨類の分布パターン、資源量などの情報を得る手段として、日本の捕獲調査の中でも重要な部分を占めている。そして、そのために目視専門の調査船を運航している。
音響調査は、鯨類の発音を記録して分布パターンや資源量を得る手段であり、夜間や荒天などでも資料が得られる利点があるが、クジラは連続して鳴音を発することはなく、鯨種、性の判別や、群れの構成員数の把握が困難であることなどの欠点があるので、一部の鯨種を対象にした調査を除いて、音響調査はまだ実用の段階にはない。
クジラの表皮のバイオプシー標本は、DNAによる鯨種、系統群、性などの判別、テロメアによる年齢査定、汚染の把握などに用いる可能性があるが、捕獲に比して採集法が難しく、時間がかかり、大量に採集するのが困難である、など、実行上の問題が多い。また、肝臓などの体内組織の標本は、バイオプシー調査では得られない。
衛星標識調査は回遊生態、生理や繁殖場の推定や環境調査などに有用な手段であり、日本の捕獲調査でも技術の発展が進められているが、異物を体外に排出する生物の特性、装着方法、電池の寿命、などの未解決の部分が多く、いまだに長期に渡る実用段階にない。
個体識別調査は、自然標識調査ともいわれ、クジラの個体ごとに、体の形や模様、傷痕などの特徴を識別して、それを写真などに記録し、その個体を再発見して、移動や成長、繁殖、死亡率、群れの構成などの知見を得る、非致死的方法である。この方法はザトウクジラのように、体色などの個体の特徴が掴みやすく、資源長が少なく、遊泳速度が遅く、沿岸性である鯨種に有効であるが、その反対の特徴を持つミンククジラのような鯨種には応用が困難である。
最近反捕鯨勢力はしきりに、食生の非致死的調査手段としての、糞調査を推奨しているが、前述のように、鯨類の糞は海中に排泄され、下痢便状であり、常に排便するものではないので、糞の採取が困難である点からも、糞調査は実用的ではない。
~ 後略 ~

引用部分を補足すると、データロガーとはこの場合は深度や温度(この場合は水温?)を計測するもので、衛星標識調査(GPSロガー?)と結果を照合することで、対象となる鯨類の行動パターン(どの海域でどんな水温の、どんな深度にいるのか?)の懐石に使われるものだと思われます。
テロメアとは、染色体の末端にある染色体を保護する構造物で、年齢の測定に利用できるものとされています。

果たしてそれらの確実性は?

さて、上記の引用部分を見ると、様々な調査方法があり、一見「捕殺などしなくても、必要な調査は行えるのではないか?」と思われる人もいるでしょう。
調査捕鯨に反対する人の中には、「捕獲してしまうと、一頭の鯨を継続的に調査できないので効率が悪い」という批判をする人もいますから、捕獲してしまうことは無駄が多いと考えている人も、きっといると思います。
しかし、引用部分をお読みいただくと、鯨種や環境によっては不向き、もしくは使えない調査方法があることがお分かりいただけると思います。
例えば鯨の糞を採取して、食性を調査する方法は、荒れ狂う南極海ではおそらく不可能でしょう。
南極海での調査捕鯨の対象海域は南緯三十度から六十度ですから、四十度以南の「吠える四十度・狂う五十度・絶叫する六十度」といわれる極地が大半になってきます。
2012/2013シーズンの調査捕鯨では南緯62度以南ですから、かなり過酷な環境だったと思われます。

上の動画は、南緯四十六度の海域で撮影されたものです。
こんな状況では、鯨の群れを発見することも、とても難しいでしょう。
仮に目視で発見できた(これ自体が既に難易度がかなり高い)としても、排泄のタイミングを見計らって、海中にあっという間に溶けてしまう鯨の糞を採集することが、果たして可能でしょうか?
可能だというのであれば、ぜひ挑戦していただきたいものです。
もちろんこんな日ばかりではないでしょうが、それを差し引いたとしても、平均気温がマイナス十度(これは昭和基地の平均気温ですが)の南極付近の調査になりますし、氷山の浮かぶような海域での調査なども当然ありますから、難易度がどれだけ高いかわかると思います。
「○○なら効率的に調査ができる!」というのであれば、既にその方法は取り入れられていることでしょう。

調査捕鯨でも様々な調査が行われている。

それらの難しい調査の狭間を埋めるものが、捕獲調査になるわけです。
個体の継続した調査は、特定の個体において行えばいいわけですから、それ以外は必要に応じて捕獲し、必要な部位のサンプリングを行うほうが、効率を考えれば正しいことになります。
そういった個体識別での調査や皮の採取による調査も当然行われていますし、それとあわせて、個体数の多いミンククジラに関しては捕獲して、必要なサンプルを集めているに過ぎないわけです。
海況や、鯨種、ランダムサンプリングに対応できる状況か否かなど、様々な判断基準で捕獲するのか、そのままサンプルだけ採集するのか、それとも写真撮影を行うのかなど、いくつかの手法を組み合わせて調査を進めているのです。

では、非致死性手法のみでの調査の確実性は?

では、非致死的な手法だけでの調査は、行われたのだろうか?
実は、SORPという調査が、オーストラリアやニュージーランドを中心に、複数の国の協力の下で行われています。
確か前回のIWC総会でも、その説明と成果の発表があったのですが、これは日本では報道されていないようです。
先ほどのページを機械翻訳すると、どうやら個体数の少ない鯨類についての調査のようです。
実はこの調査、あまり確実性が高いものともいえないということが、以前に大隅清治博士によってWeb上で批判されていました。
内容を一言でまとめると「確かに見習うべきところはあるが、日本の調査と比較して、あまりにもお粗末なものであった」といったところでしょうか。
詳しくは、リンク先のページをお読みいただくとして、この調査の結果は「如何に極地での調査が難しいか」という現実を、反捕鯨国の関係者に与えたのではないかと僕は思いますが、SORP自体は継続されているようです。
どちらにしても、効果的な調査方法が取り入れられることで、南極海の調査がより精度の高い状態で行えるようになることは、鯨類資源の全体の解明に効果を発揮するでしょうから、すべての国が喜ぶべきことだとは思います。
しかしそれは、イデオロギーに左右されず、客観的な研究成果として評価されるべきではないかとも思います。
「非捕殺で、十分効率的な調査が可能である!」と主張するのであれば、ぜひそれを実行すべきです。
解体新書「捕鯨論争」の第三章で、調査捕鯨に関しての様々な批判が書かれていましたが、そういった批判は、調査捕鯨と同等か、それ以上の成果や実績を上げてからでも、遅くはないのではないかと思いました。

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