EIAキャンペーン動画に見る活動家の言説(2) -捕獲方法のミスリード-

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東北のイルカ漁とは無関係な太地のイルカ追い込み漁

前回から書いているEIAのキャンペーン動画に関する記事ですが、今回は動画の中で扱われているイルカの漁法に関する表現について見ていきたいと思います。


突きん棒漁の漁船

突きん棒漁の漁船

前回の記事では、「イルカを食べることのない動物愛護活動家たちが、消費者の不安を煽りやすい水銀中毒の危険性を訴えて、イルカを食べさせないために左派の科学者をうまく利用している」という内容でした。
彼らは自分たちが食べもしない食材について、消費者の立場を騙り「水銀は要らない!」と声高に叫びます。
ところが残念なことに、太地町では水銀による健康被害が無いことから「安全宣言」がなされ、更に綿密な調査が行われることにより、彼らの言う「政府は危険性を伝えていない」という主張が嘘であることが明確化されてしまいました。

今回は、動画の中で語られているイルカ漁に関する情報の誤りを指摘しつつ、このキャンペーンはザ・コーヴ抜きに語ることが出来ない虚構であるということについて、見ていきたいと思います。

混同されて扱われる漁法

この動画ではイルカ漁に関する漁法のことは一切語られていません。
漁に関連する事柄で記録されているのは、イルカ漁に使われる漁船(0:40~)と、漁具として映し出される突きん棒のアップ(0:30~)があるくらいで、東北でどのようにイルカが捕獲されているかについては、この動画からは、視聴者にはわかりません。

しかし、動画の中(1:03~)では、なぜか太地町の影浦の様子が映し出され、もっともらしい字幕で動画の内容に関連性を持たせるような編集がなされていました(しかも例によって例のごとく「追い込み漁」の終わった後の、捕殺が始まるあたりのシーンです)。
内容として妥当な編集をするのであれば、近隣のスーパーや漁協スーパーで販売されているイルカ肉のパッケージなどを撮影して、同様なテロップを入れるのが妥当であって、影浦の光景を挿入することは、ザ・コーヴの海水が染まるシーンや銛をイルカに突き刺すシーンを連想させることを狙っているように思えます。

このことからも考えられるのは、東北で行われているイルカ漁を太地町と同様のイルカ追い込み漁だとミスリードさせようとしているのではないかという疑惑です。

東北では行われない「イルカ追い込み漁」。

まず、イルカに限らず追い込み漁という漁法はポピュラーな漁法で、様々な魚種に用いられていることについて、語っておく必要があると思います。
対象の魚種を音などを立てることで追い立てて、網や入江に追い込む漁を、一般的には追い込み漁といい、追込漁(ものと人間の文化史)という書籍では、イルカ漁以外に様々な魚種が追い込み漁の対象だったことが書かれています。

東北のイルカ漁とは無関係な太地のイルカ追い込み漁

東北のイルカ漁とは無関係な太地のイルカ追い込み漁

そして、イルカに関しては現在では富戸と太地という2つの漁場が存在していますが、残念ながら富戸では中断されている状態で、唯一毎年イルカの追い込み漁が行われているのは太地のみとなっています。
こういった事情は日本人でも現地の人か、あるいは興味のある人が知っていることで、興味がなければ知らなくても仕方がないことでもあります。
動画の中のインタビュー(5:40~)されている人たちは、標準語で話しており、恐らく東京で撮影されたものではないかと思いますが、食べもしないものについて、当然漁法や流通について知ることもなく、伝聞の情報を語っているだけであろう状態なのは明らかです。

恐らくインタビューを受けた人たちもそうだと思いますが、更に事情に疎い海外在住の方々が、当然漁法の違いなどを知っているはずはありませんから、影浦のカットが入ることで、ザ・コーブの記憶が呼び覚まされ、「同じような残酷な漁法によってイルカが乱獲されている」と、錯覚するであろう可能性は当然あります。
というより、それを狙ってカットを挿入しているのではないかと疑うほうが自然だと思います。

太地を持ち出す意図

動物愛護活動家がなぜ太地町に固執するのかについては、非常にわかりやすい理由があります。
反原発の主張を繰り返す人たちの中で顕著になっている「フクシマ」という地名と同様に、「Taiji(太地町)」や「The Cove(畠尻湾にのとなりにある影浦という「入江」)」は、象徴的な存在だからです。
かつては壱岐や富戸で行われていた追い込み漁について、活動家がその様子をカメラに収め、同じように太地町の追い込み漁もその様子が記録され、映画として世に出てしまいましたが、これまで東北の突きん棒漁に関しては、詳しい様子を収めた映像や写真は存在しませんでした。
「日本最大のイルカの漁場である東北で活動が行われないのは、凄惨なシーンをカメラに収められず、活動を正当化して寄付を募ることが難しいからで、彼らはそのことを当然知っている」という話は以前からあり、2011年の東日本大震災の最中に大槌を訪れたコーヴ・ガーディアンも、結局は大した成果も上げることは出来ませんでしたから、東北のイルカ漁については活動に適したコンテンツを作れずにいるのです。

ですから、漁法としては何の関係もない太地町のイルカ追い込み漁を利用して、東北のイルカ漁を凄惨なものであるかのように印象つけようとしているのです。

「イルカ追い込み漁」への批判抜きでは語れない、反イルカ漁活動

「ザ・コーヴ」がきっかけになった太地のイルカ追い込み漁への批判の多くは、入江が真っ赤に染まるという「凄惨さ」への批判でした。
このシーンは、捕殺する場所が陸地に近く、撮影に適していない限りカメラに収めることは難しいでしょう。
イルカや鯨の捕獲に関する批判は、基本的にその漁の凄惨さへのものであり、カメラに収められるのは、イルカや鯨の死骸であり、死骸から流れ出る血液、そして「真っ赤に染まった海」を残酷さの象徴として活動家は利用するのです。
ところが、東北のイルカ漁への批判を行うには、どうしてもこれらの素材を収集するのが難しかった。
だから常に批判の中心は追い込み漁であり、その何倍もの数を捕獲している東北で活動することが出来なかったのです。
国内において、今回のような「水銀中毒への批判」が空振りに終わった場合、その後、どのような論拠でイルカ漁や沿岸捕鯨を批判することになるかはわからないのですが、それでもメインになるのは「凄惨さ」を演出できるイルカ追い込み漁に集中するのではないかと、僕は考えています。
また、太地と富戸での追い込み漁のシーズンがやってきますが、現地の関係者の方は、こういった見当はずれな批判に屈すること無く、漁に勤しんでいただきたいと思います。

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