EIAキャンペーン動画に見る活動家の言説(1) -左派科学者の有効活用-

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今回から暫くの間、数回に分けて、先日見つけたEIAのキャンペーン動画を眺めていて気がついたことを書いていこうと思います。今回は、その動画の中で重要な役割を担う人物についてです。

小野塚春吉教授

小野塚春吉教授

水銀がいらないと言っているのは誰なのか?

今回話題にしている動画は、EIAが制作した「水銀いらないキャンペーン」というものです。

趣旨としては、「東北や太地町で捕獲され、近隣やネットで販売されているイルカの肉には大量の水銀が含有されており、日本の科学者もそのことを警告しているが、多くの人がこのことを知らない。私たちは政府にこういった危険について警告をするべきだ」といったところなのですが、水銀の危険性については以前の記事にも書いた通り、太地町の方々が健康を害すること無く生活している以上、捕鯨地から離れた人たちがどれだけ頑張ってイルカや鯨をを食べようが健康に害を及ぼすことはありませんし、食べ過ぎたと思えば摂食を控えればいいだけの話なので、気にする必要はあまりないのですが、相変わらずヘルプアニマルズのTwitterアカウントでは、安全宣言が出された太地町産のイルカ肉に対してヒステリックに注意を発しています。(しかも参照先がエルザ野生保護の会のウェブサイトで、ツイートがボットからなされているあたり、わざと気が付かないふりなのかもしれませんが……)

「水銀いらない」という主張をしているのは、決してイルカや鯨を食べている人たちではなく、それらに関わったことのない人や、イルカ漁や捕鯨を反対する人たちなのですから、この「水銀いらない」という主張に正当性が全くなく、「自分たちが残酷だと考えている捕鯨やイルカ漁をやめさせるために、方便として水銀の害を持ち出している」ということは、ザ・コーヴについても指摘されており、それでも同じ主張を繰り返す姿勢は、「嘘も百回繰り返せば真実になる」と信じて疑わないと考えているのかもしれないなと感じられます。

「水銀の害を語る日本人科学者」のロールプレイ

この動画の中に日本人科学者として「小野塚春吉教授」という人物が登場します。
この人物については後述しますが、日本人の口から水銀の害を語らせるという手法は、ザ・コーヴにもあり、北海道医療大学の遠藤哲也准教授が水銀の害を撮影スタッフに熱心に語っていると思われるシーンが重要な意味を持っていました。
ザ・コーヴでは、後に「恣意的に編集された」と遠藤准教授が配給会社など提訴するなど、問題を多く残すこととなりましたが、結果として「日本の科学者がそう言っているではないか!」という箔付けがなされたという効果はあったのでしょう。
恐らくはそういった効果を狙って、主張に沿った研究を行なっている研究者を探していった結果、小野塚教授に行き当たったのではないかと、僕は想像していますが、年間の一人あたりの消費量を度外視して、鯨類の肉が危険であるという主張をしているあたり、素人の僕でも、本当にその分野に詳しいのか疑問に感じてしまいます。

スポイルされたダイオキシンの害

この動画の中の小野塚教授の登場シーンで興味深いのは、二度目の登場シーン(5:00~)で、実は日本語の字幕と英語の字幕の内容が異なり、日本語で語られている「ダイオキシンの害」が英語字幕ではスポイルされています。
この動画を小野塚教授は確認したのかどうか、今のところ定かではないのですが、意図的にそうされたとなると、遠藤准教授の件のように「恣意的な編集がされた」といえなくもない。
なぜダイオキシンの害がスポイルされたのかは、制作したEIAにしか理由はわからないのですが、想像するに「輸入牛肉」「ダイオキシン」あたりで検索すると、アメリカからの輸入牛肉の問題がクローズアップされてしまいますので、業界団体に配慮したのだろうかと思わずにはいられませんでした。

「日本の科学者」とはどんな雑誌なのか?

小野塚教授のパートで字幕に登場する「日本の科学者」は本の泉社が出版する雑誌で、「日本科学者会議」という団体が関わっているものです。
この団体のWebサイトを拝見すると、原発事故や放射能汚染に関するコンテンツがあり、その論調はTwitter上でヒステリックに放射能の害を騒ぎ立てる環境左派の方々のそれと類似しているように思えました。
この団体をGoogle検索しようとすると、「共産党」や「菊池誠」というサジェストがされるのですが、菊池誠先生も以前にこんなツイートをしていることからも、やはり左派の方々の団体なのでしょう。
また、wikipediaのページを拝見していると、こんな話が出てきます。

民主主義科学者協会の各部会が1950年代にほとんど崩壊または独立した学会に転じてから、科学者の全国組織を望む声が高まり、設立された。
日本科学者会議

そして、引用部分にある民主主義科学者協会のページにはこう書かれています。

民科の指導部は実質的に日本共産党の影響下にあったが、発足当時の民科では共産党の政治的指導はゆるやかであった。1950年代に入ると日本共産党(所感派)の手で、民科内部に政治的課題が持ち込まれた。1952年に民科書記局員だった石母田正は「国民的科学の創造」を提唱し、民科の路線も「国民的科学の創造と普及」を目的としたものに変化する。政治と科学の結合をめざした運動中心の考え方は、共産党と無縁な学者や学生の離反をもたらした。1955年、共産党が六全協で路線転換を行うと、民科指導部も混乱して求心力をうしなった。1956年、ソビエトでのスターリン批判にともない、民科が支持していたミチューリン農法の正当性が否定されたことも大きな打撃となった。科学者・研究者からの支持を失い指導部も混乱した結果、機関誌「国民の科学」は停刊し、1950年代末から1960年代前半頃にかけて大部分の部会は実質的に解体した。1956年の第11回全国大会開催を最後に民科本部としての正常な運営体制が崩壊し、[2]翌1957年に本部事務所を閉鎖、事務局を解散した。その後一部の部会は独立した研究団体となり、活動を続けた。
民主主義科学者協会

……上記の引用部分を読んで感じたのは、科学というより特定のイデオロギーに支配された団体だったのかなということです。
その流れをくむであろう日本科学者会議という団体が、科学者として適切な活動をしているのか、僕にはよくわかりませんが、少なくとも個人的には疑いの視線を隠すのは難しいと思います。
「日本の科学者」という雑誌についても、それほど有名で権威があるわけでもなく、そういった人達が集まって作った雑誌だという程度の評価にしかならないように思います。

彼らの持ち出す科学とは何か?

ザ・コーヴでは、事象を組み替えて都合のいいストーリーを作り上げて「ドキュメンタリー」だと彼らは言いました。
そして、その劇中に登場した科学者が、「恣意的な編集をされた」と後に語っています。
それが正しく科学的で、編集が恣意的でなければ、そんな指摘はなされなかったでしょう。
同様に、今回のEIAが作成した動画も、後の記事で指摘することになりますが、様々な疑問点や反論を含んでいます。
例えば今回の記事で取り上げた字幕の内容についてです。
このように、彼らの言うところの科学は、彼らに都合のいい事のみにスポットがあてられ、都合の悪いことに関してはスポイルしても構わないものなのだとすると、それを指針として考え論じていくのは、なかなか危険なことではないかと、そんなふうに感じました。

にも関わらず、彼らは彼らの言説にあうような科学者の意見を探してきて権威付けする手法は、環境志向のドキュメンタリー的な映画に必須となっていく事でしょう。
そこは、自説を語ることが許される科学者にとって、立派なステージとなるのでしょうが、実際は彼らの都合で語らされているに過ぎないのかもしれませんね……。