自然の海は楽園か?

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この話もやや賞味期限が切れつつあるものですが、言及しておきたいことがあります。
イルカ、水族館より野生の方が病気がち 米研究
ニュースを引用すると……。

米オンライン科学誌プロスワン(PLOS ONE)に掲載された論文によると、研究グループはフロリダ(Florida)州のインディアン・リバー・ラグーン(Indian River Lagoon)とサウスカロライナ(South Carolina)州チャールストン(Charleston)に生息する野生のイルカの群れと、ジョージア(Georgia)州とカリフォルニア(California)州の水族館で飼育されているイルカの群れを比較調査した。

 その結果、飼育されているイルカの方がはるかに健康であることが分かった。野生のイルカで「臨床的に正常」とされたのは半分にも満たず、多くは慢性的に免疫システムが活性化し、病気を撃退している兆候を示していた。

 これについて、論文の筆頭著者であるパトリシア・フェア(Patricia Fair)米サウスカロライナ医科大(Medical University of South Carolina)研究教授は「おそらく海では、厳格に管理されている生育環境には存在しない病原体や寄生生物、人が原因の汚染物質にさらされる」ためと説明している。

TwitterなどのSNSで流布されているデマの中に「水族館のイルカは自然の海に住むイルカよりも短命である」というものがあるが、このニュースはそのデマを打ち消すきっかけになるだろう。
「自然の海は楽園ではない」ということについて、多くの人が認知すべきことではないだろうか?

観測不能だからこそ無敵な存在になりえる

以前に、こんな記事を書いた。
水族館は牢獄か?
この記事では、Twitterなどで流布される「水族館のイルカは短命だ」というデマに対して、マリンピア日本海のWebサイトに掲載されている情報を紹介しつつ、水族館関係者がしているであろう苦労について書いてみたわけですが、その中にこんなことを書いた。

では、実際はどうなのか?
動物園も水族館も、あまり裏側が公開されることがなく、最近になって運営するブログなどでその様子がわかるようになってきたが、イルカを始めとした小型鯨類の飼育の様子がよくわかるものに、太地町立くじらの博物館公式飼育日記がある。
このブログを読んでいけば、物言わぬ動物たちの健康について、どれだけ気を払っているかがわかる。
例えば、日頃からトレーナーが目で様子を見て体調を確認するのはもちろんのこと、目に見えない部分の体調は血液検査や検温などで見極め、その個体に合った薬(ただし、動物用の薬というものが本当に限られるので、殆どの場合は人間の薬のようだ)を、個体に合った方法であたえるように、飼育している鯨類については慎重に飼育をしているようだ。
それでも中には死んでしまう個体もいるわけだが、混獲や幽霊漁業、ソナーなどの脅威にさらされることなく暮らすことが出来る環境があるわけだから、自然の海と比較して、どれだけ生存に適しているかは自明である。

水質についても、天候によって変化したり、排水によって水質が低下する自然界よりも、一定の状態に保たれるプールのほうが、体調を一定に保つことが出来るだろう。
くじらの博物館のクジラショーを行うプールは、地形をそのまま利用した自然のものなので、海水をそのまま利用しており、台風などが接近すると水が汚れるために鯨やイルカは集中力をなくすのだそうだ。
自然環境におかれたイルカや鯨も、その環境特有のストレスを感じていることは、ぜひとも知ってほしい情報である。

個体の体調管理は、くじらの博物館(もしくは水族館に類する施設)だからこそ把握でき、公表できるものである。
それに比べて、自然界のイルカは、同一個体を永続的に体調を管理し続けることはほぼ不可能だ。
それどころか、場合によっては同じ個体を永続的に観測し続けることすらも難しい場合もある。
今回のニュースや以前に調査されたイルカの寿命に関してもそうだが、自然界という大きなフィールドで長期間の調査を行うこと自体が、非常に難しいもので(調査捕鯨にしても同じことが言える)、とても貴重な研究の成果なのだが、アニマルライツ活動家にとっては都合の悪い成果だろう。
逆に、そういった調査結果がなければ、本当のところはどうなのかを誰も知ることができず、飼育状況が明確にわかる施設の状況だけを批判することができるというフェアじゃない状況を作り出すことができる。

わからないからこそ素晴らしく、観測不能だからこそ無敵な存在であると言えなくもない。

話をすり替える人たち

イルカの寿命の話題については「大切なのは寿命ではない」と、話をすり替えようとした人もいたが、その人は話の経緯を理解していなかったようだが、寿命を問題の俎上に上げたのは、アニマルライツ側なのだ。
恐らくこの話題についても、「健康状況の問題ではない」と話をすり替えようとする人も出てくるだろう。
ただ、このことについて言っておきたいことがある。
僕は数年間太地という場所についてのSNSでの言及に着目し続けてきたが、イルカの健康状況について批判的に言及しているのは、むしろアニマルライツ側で、実際の飼育について情報を仕入れていけば行くほど、それらの言及が単なる中傷でしかないようなものばかりだったと言わざるをえないものだった。
彼らの意識は、とにかく水族館という存在を悪しきものに、飼育される鯨類を悲劇の存在として扱いたいのだろう。
どれだけ飼育員に説明されても「あのイルカはストレスで苦しんでいる。狭いプールの中に押し込められていたら、ストレスだって貯まるだろう」という妄想から抜け出せない人たちの目には、投げてもらった魚をうまくキャッチして、その魚で器用に遊ぶイルカの姿など映りもしないだろう。
健康管理のために与えられる栄養剤のたぐいも「ストレスのためにのまなければならない薬」にされてしまうのだ。
どれだけ長生きさせようが「苦痛にまみれた水槽からの解放を!」と批判され、努力の甲斐なく亡くなった個体を指差し「奴らが殺したのだ」と罵倒される。

……それが水族館の、特にイルカなどの鯨類に携わる人達に向けられる、先鋭的なアニマルライツ側の感情と言葉だ。
寿命や健康状態についての批判的な言及を、主に彼らによってもたらされたもので、決して水族館の側が持ち出したものではない。
命に携わっているものに、そんな愚かな議論に付き合う余裕はないからだ。
にも関わらず、都合が悪くなると恥ずかしげもなく話をすり替えようとする人たちがでてくる。
そうした人たちの言動を、きちんと記憶しておくといいだろう。