バキータ保護とシー・シェパードの欺瞞

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一身上の都合でしばらく更新できませんでしたが、3つほど記事を投稿しようと思います。
まずは、やや賞味期限があやしい記事ですが、カリフォルニア湾のバキータの話題です。

希少なイルカ、間もなく絶滅の危機 カリフォルニア湾に30頭のみか

もう今さらな話題ですが、ちょっとこの話題について、書いておきたいと思う。

 

遅きに失したシー・シェパードのキャンペーン

ご存知の方がどれだけいるかはわかりませんが、このバキータの保護については、シー・シェパードがキャンペーンを行っている。
キャンペーンを始めたのはどうやら2015年4月のことのようだ。
とても不思議な事だが、海を挟んだ外国のイルカ追い込み漁に大勢のスタッフを送り、莫大な予算を組んで毎年プロジェクトを行っているのに対し、シー・シェパード発祥の地であるアメリカ国内の深刻な状況に陥っているバキータ保護の問題に関しては、それまでは何ら活動をしてこなかったようなのだ。
完全に僕の憶測で綴るが、キャンペーンを開始する丁度一年前にICJで日本がJARPA-IIの中断を宣告されシー・シェパードの目玉キャンペーンであった調査捕鯨の妨害に関するものが将来的に縮小せざるを得なくなったこともあり、別のキャンペーンを行うことで衆目を集め続ける必要が出てきたこともあり、今更だと考えつつもバキータ保護のキャンペーンを始めたのではないかと、そんな風にも考えられる。
 

イルカ天使とスーパーホエールに存在感で負けたバキータ

資源量の観点から考えて、彼らが日本に対して行ってきたキャンペーンは、バキータ保護の重要性を上回るものではないことは、誰の目にも明らかだろう。
しかし、彼らは太地町に活動家を送り追い込み漁に携わる人を愚弄し続け、そのフォロワーは「#イルカ天使」などのハッシュタグを用いたスラックティビズムでその活動を後押ししていた。
また、調査捕鯨の妨害に関しても、保護対象の資源量を基準に考えれば、莫大な予算を使ってまで行う必要性はまったくなかったと言ってもおかしくはない。
しかし、彼らはそれを喜々として行い、大々的にPRに利用した。
そしてそれが、シー・シェパードという団体の急激な成長に繋がったのだ。
捕鯨ライブラリーのハイ・ノース・アライアンスの発行物に掲載された記事の翻訳(そういえば極北連盟サイトが消滅してしまいましたね。とても残念でなりません)にこんなことが書かれている。

環境保護や動物保護の活動家はしばしば「鯨は」という言葉で単一種のように語る。 我々は「鯨は世界最大の動物である」、「鯨はこの世で最大の脳を持つ」、「鯨の脳は体重との比でも大きい」、「鯨は社会的であり、友好的である」、「鯨は歌う」、「鯨の社会には子供の面倒を見るシステムがある」、「鯨は危機に瀕している」などの主張を耳にする。 確かにシロナガスクジラは世界最大であるし、マッコウクジラの脳は世界最大であるが(体のサイズと比較すると小さいが)、しかし他の点のほとんどについては証明するのは困難である。 世界中に75種類以上いる鯨の中で、上の中のある言説がある程度当てはまるのは1つか2つである。 だが、人が鯨について話す時、これら様々な鯨種の特徴すべてを持つ単一の「鯨」がいるかのごとく語っている。 しかし、実際にはそんな鯨などは存在せず、それは架空の動物「スーパー・ホエール」なのであり、しかも擬人化された存在である。 ニュージーランドのIWCコミッショナーにとって、鯨はもはや海に住む我々の同類になってしまっているのであり、グリーンピースのデンマーク支部長だったミカエル・ギリング・ニールセン(Mikael Gylling-Nielsen)にとっては「海に住む人間」となってしまっている。 鯨やイルカはニューエイジ運動にのめり込んだグループにとってはカルト的崇拝の対象になってしまった。

もう、おわかりだろう。
環境保護活動家やそのフォロワーは、イルカ天使やスーパーホエールには夢中になれたのだろう。
しかし、鯨類の一種であり、かなり以前から絶滅に瀕していると指摘されていた「バキータ」こと「コガシラネズミイルカ」については、夢中になるどころか知る由もなかった可能性が高いわけだ。

知名度?美醜?エスノセントリズム?二者の明暗を分けたもの

僕がこの話を知った頃(2011年)で、ザ・コーヴを観た数ヶ月後のことだ。
セントローレンス川のベルーガやヨウスコウカワイルカなどと同様に、絶滅に瀕しているバキータの存在をある方から聞かされ、これらの存在の保護活動は行われているのだろうかと気になり、自分なりに調べてみたところ、どれもあまり芳しい状態とはいえず、ヨウスコウカワイルカに関していうとどうやら絶滅した(目撃情報もあったそうだが専門家は懐疑的だそうだ)ようだしほぼ同水域に生息しているスナメリも絶滅の不安がある状態。
以前に読んだ「川に生きるイルカたち」の読書メモを読むと、日本でもヨウスコウカワイルカについては「カワイルカ保護協議会」が設立され、10年間で400万円の寄付が集められ、ODAから一億円が拠出されたそうだが、保護には至らなかった。
読書メモには、揚子江のスナメリは順調に個体数を回復したうような記述があったが、この本が書かれた2004年から10数年が経ち、どうもヨウスコウカワイルカと同じような道を歩みつつあるようだ。
ヨウスコウカワイルカの保護活動には「長江のパンダ作戦」という名前までついていたらしい。
「長江の妖精」とも呼ばれ親しまれていたにも関わらず、パンダの恩恵に授からなければ保護もおぼつかない状態だったのだろうか?
カワイルカの仲間は、川という狭い水域に生息するために文明に接する機会が多く絶滅が心配されるものも多い。
しかし、一般的なイルカ(バンドウイルカを思い浮かべる人がほとんどだろう)とは異なる外見からか、あまり注目されることもなかった。
パンダのような愛くるしい外見であれば、WWFのシンボルマークにまで上り詰めることもできただろうが、ヨウスコウカワイルカは絶滅し、揚子江のスナメリもまた、同じ道を辿っている。
恐らくバキータも同じ道をたどる運命にあるのだろう。

しかし、さらに首をかしげてしまう僕がいるのだ。
資源量の多いバンドウイルカは「イルカ天使」と持ち上げられ、資源量に関わりなく保護を叫ばれ、捕獲する漁師は人権を踏みにじられるような扱いを受けるのに、本当に保護が必要な存在であるバキータは、未だに大した救いの手を差し伸べられていないように思える。
この国からアメリカに渡ってバキータ保護に参加した活動家を僕は知らないし、シー・シェパードが具体的にバキータ保護のために何か強硬な手段を取っているという話も聞かない。
この二者を明暗は、何によって決められたのだろう?
同じ鯨類にも関わらず、ここまで大きな差ができてしまったのは、何故なのだろうか?
問題の知名度だろうか?
対象の美醜だろうか?
それとも活動家が持つエスノセントリズムだろうか?

欺瞞だらけの活動を注視しよう

話がそれ過ぎたので戻すが、シー・シェパードがこの問題に関与しようとした理由は正直なところわからない(彼らがバキータに大した価値を見出していないのは、活動の経緯をみれば明らかだろう)が、彼らの活動には注意が必要だろう。
そういえば、ダイレクトアクションに限界を感じつつあるせいか、別のベクトルに活動の可能性を求めている形跡があり、シー・シェパード・リーガルなどという別組織を設立したらしい。
別組織に見えても、実際はシー・シェパードと無関係な組織ではなく、同じ面子がそれなりにいるため何らかのリスクヘッジではないかと推測できるだろう。

彼らの活動は欺瞞だらけだ。
その影で、滅びゆく命があることを、忘れてはならないだろう。